第四章:Guardian Angel/02
「おう、無事だったか」
来客の正体は、他ならぬ鏑木孝也だった。
開けた玄関扉の向こう、玄関口に立つ彼。相も変わらずカーキ色のトレンチコートを羽織る彼を、レイラはひとまず家の中に招き入れた。
そうして勝手知ったる調子でリビングルームまで入ってきた彼は、ソファにちょこんと座る憐を見て「坊主も無事か。良かった良かった。秋月の息子に何かあったとあっちゃあ、俺が奴に顔向け出来ねえからな」と、まさに一安心といった感じで笑う。
「秋月って……貴方まで、どうして父さんの名前を」
そんな鏑木の言った言葉、秋月という名を聞いて、憐は更に戸惑いの表情を見せる。
鏑木は戸惑う憐の様子を見ると、小さく肩を揺らし。そうすれば傍らに立つレイラに「おい、お前まだあのこと坊主に話してねえのか?」と問う。
「今話そうとしていたところよ」
「ったく……言いづらいなら、俺が代わりに言ってやろうか?」
やれやれと肩を竦める鏑木に「それには及ばないわ」とレイラは言い、
「……これは、私と彼にとって一番大事なこと。私の口から伝えるのが筋でしょう?」
続けて鏑木にそう言うと、再びソファに座り直し。戸惑い続ける憐に改めて向き直ると、今まで話していなかった肝心なことを彼に語り始めた。
「憐、今から話すことは私と貴方、お互いにとってすごく大事なことよ。色々と疑問はあるでしょうけれど、まずは黙って聞いて頂戴」
「……はい」
「まず単刀直入に言うわ。貴方の父親――秋月恭弥と私は知り合い。いいえ……暗殺者だった私は彼に拾われ、弟子として……同じスイーパーとして、恭弥に育てられたのよ」
「父さんが……レイラと同じ?」
疑問符を浮かべる憐に「そうよ」と頷いて肯定し、レイラは話の続きを進めていく。
「まず話しておくと、私はある組織に暗殺者として育てられたの」
「……そんなレイラを、父さんが?」
「そう。私は彼を殺すために送り込まれ……逆に返り討ちにされてしまった。私は殺されると思っていた。でも……恭弥は何故か、私を助けてくれたの」
「どうして、自分を襲ってきた相手を?」
「その理由は私にも分からないわ。ただ……恭弥は私を助けて、私を弟子にしてくれた。私が元居た組織も、程なく彼が壊滅させてしまったわ」
「……父さんが、レイラを」
「今の私がこうしていられるのは、間違いなく恭弥のおかげよ。恭弥に拾われて、恭弥に全てを教わって。そして……恭弥に生命を救われた」
「父さんにレイラが生命をって、それって、どういう……」
「言葉通りの意味よ」と、レイラは答える。「私が今生きているのは、恭弥が守ってくれたから。恭弥は――私を庇って、死んだのよ」




