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エピローグ:エンジェリック・バレット/03

 ――――久城本家。

 郊外に建つ大邸宅だ。日本でも指折りの大企業連、かの有名な久城コンツェルンを率いる久城家の邸宅たるこの屋敷。二階にある総帥・久城彰隆の執務室にて、レイラと憐の二人はその久城彰隆と……憐の祖父と顔を合わせていた。

「……まずは、これを受け取るがいい」

 彰隆は目の前に立つ二人に言って、和服の裾から小さなマイクロフィルムを取り出し、机の上に置いたそれをそっとレイラたち方に滑らせる。

 それは、秋月恭弥の遺産。最強の暗殺者を創造することを目的とした悪魔の計画、プロジェクト・ペイルライダーの、この世に残った最後の研究データが詰まったマイクロフィルムだ。

「確かに、受け取ったわ」

 レイラは自分の目の前に差し出されたマイクロフィルムを手に取ると、そう言ってフィルムを懐に収める。

「これで、依頼は無事に完了ね」

 続くレイラの言葉に、彰隆は「そうだ」と低く頷き。そうした後でこんなことをレイラたち二人に言った。

「…………これを私に託した時、恭弥くんは言っていた。自分たちがこれの処遇を決める資格はない。来るべき時、然るべき人物がこれをどうするかを決めるべきだと。

 その遺志に従い、私は今日までこれをそのままにしていた。だが……来るべき時は来た。そして……これをどうすべきか決めるのは、君たちだろうな」

 スッと目を細めながら言った後で、彰隆は今度は憐の方に視線を流し。続けて彼にこんなことを、心から謝罪するように言っていた。

「だが……こんなものがあるせいで、お前を危険な目に遭わせてしまった。……憐、本当にすまなかった」

 目の前の孫に、頭を下げる彰隆。

 憐はそんな祖父に対し、笑顔を浮かべながらこんな言葉を返していた。

「確かに、それのせいで僕はとんでもないことに巻き込まれちゃったけれど。でも……そのフィルムがあったおかげで、僕はレイラと出会えたんだ。本当の父さんのことも知ることが出来た。だから……良いんだ、お爺ちゃんは謝らないで」

 笑顔を浮かべながら、真っ直ぐな瞳で言う憐。

 彰隆はそんな孫を前にして、フッと表情を綻ばせながら「……本当に、強くなったな」と感慨深そうに呟いた。「本当に、恭弥くんにそっくりだ」とも。

「…………お前にその意志が無いのなら、無理に久城コンツェルンを継ぐ必要はない。憐は憐の生きたいように生きればいい」

 憐に言った後、彰隆は今度はレイラの顔を見上げつつ、

「どうか――――孫を、よろしく頼む」

 と、彼女に憐のことを託すように告げていた。

 レイラはそれにフッと微笑みながら「分かったわ」と返し、すると「行くわよ」と言って、憐とともに彰隆の執務室を去って行く。

「…………本当に、恭弥くんそっくりだな」

 遠ざかっていく二人の背中を、この屋敷から去って行くレイラと憐の、二人の姿を見つめつつ。憐の背中には、かつての秋月恭弥の面影を重ねつつ……久城彰隆は、笑顔で二人の門出を見送っていた。

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