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成り上がりの騎士と白い奴隷  作者: タコ助
白い奴隷とブリテルナ戦線
3/6

3 入団試験


「ふわ〜あ。めんどくさいなあ、なんでこんな仕事引き受けなきゃならないんだ。」


 隣にだらしなく突っ立っているフレイルは、眠たげな顔で愚痴を漏らしている。


「しょうがねぇだろ、今日は第3騎士団しか居ないんだからよ。」


 とは言うが、彼の気持ちも分からない訳では無い。この王都には新入り騎士のための訓練場があり、王国中の騎士志望者たちが集まる。


 最近では戦争への兵士不足で、騎士入団の為の試験を毎月行っているので、王都に居る騎士団が試験官を務める羽目になる訳である。


 今この訓練場に集まっているのは、今日試験を行う入団希望者に試験官の第3騎士団、そしてこの訓練場の寮に住んでいる訓練生の見物人達だ。


 俺は、1歩前に出て、声を張る。


「今日はよく来てくれた、入団希望者の諸君。この度試験官を務めることになった第3騎士団の代表として、騎士団長ブルドが今日の段取りを伝達させてもらう。」


 俺は1度入団希望者達を見渡して、続けた。


「まず皆さんには、俺が持っているような木刀を1本取ってもらう。これは一般的な両手剣の長さだ。君たちの実戦での実力を見たい訳では無いので、盾は禁止とさせてもらう。3人ずつ決闘形式で戦ってもらい、それを我々で評価し合否を決める。聞き取れなかった所がある物は挙手したまえ。」


 誰も手をあげないようだ。俺は目を見開き、にやりと笑って見せた。


「あ、そうそう、心配しなくても良いと思うが、手加減無しで来なさい。遠慮はいらない。」


 入団希望者の中で数人がそわそわし始めた。俺は元の列に戻ると、腕を小突かれる。


「あんまり怖がらせるなよ。」


 俺はわざとらしくため息をついてやってから言った。


「こんなんで怖がる野郎に背中任せてられんよ。」


「はぁ......こんなだからいつまで経っても人手不足が解消されねんじゃないの?」 


 フレイルは、心底困った顔をした。





 試験が始まった。隣のコートでは入団希望者が剣を降っている。そしてそのコートの脇で戦いを見守る団員がいる。この2人で話し合って合否を決めるのだ。


 フレイヤが「次、俺たちの番だぜ」と言った。


「ああ、了解。」


 自分たちのコートに行くと、他の団員たちに案内されて1人の男が来た。

第一印象は、貧相な身なりだな、と感じる。所々ちぎれたり穴の空いた服を着ている。


 俺は1歩近づいて言う。


「名は。」


 男は一切緊張していない様子で、「ジェイドだ」と言った。


「わかった。ジェイド、今日はよろしく頼むよ。」


 男は一つ頷いて、距離を取り、木刀を構えた。


(......でかいな。)


 俺の上背は平均程度なのだが、ジェイドはかなり大きく、少し見上げるほどだった。


 そして、構えから近づきがたい物を感じる。


(匂う。)


 いつだったか、気づいた時には強者を匂いで見分けられるようになっていた。今は、その匂いを濃く感じる。


 ジェイドは、ゆっくりと近づいてくる。


 俺は、一気にステップを踏むように距離を詰め、袈裟斬りを放つ。


 彼はそれに木刀を合わせ、弾き返すと、素早く突きを放ってくる。


 それを後退して回避すると、次に放たれた横薙ぎも紙一重で回避した。


(なんて速さだ、木刀を振るのに一切の迷いもねえ。それに単純な力も負けているかもしれない)


 こめかみに汗が浮かぶ。彼はすました態度だ。


 次は彼から仕掛けてきた。初撃から間髪入れずに木刀を振るので、防戦に徹するしか無かった。一つ一つの攻撃が重い。


 何合も打ち合うと、自分の手が痺れ始めている事に気づいた。そして追撃を回避すると、俺は目を疑った。


(木刀が折れかけている。まさか、やつはこれを狙ってーー)


 しかし、もう既に相手は袈裟の予備動作に入っている。咄嗟の反応で木刀を降るうと、木刀が折れる鈍い音と共に、場外へと吹き飛ばされた。






 慌てた様子でフレイルが近づいてくる。


「大丈夫かい。」


 俺は体の痛みを堪えながら起きると、胡座をかいた。


「ああ、心配ない。」


「なら良かった。凄い豪快に吹き飛ばされてたもん。」


 俺が顔をしかめてやると、フレイルは少し慌てたように「ブルドが負けるところなんて久々に見たよ」と言った。


「ありゃ誰だ、恐ろしい程の手練だ。」


 フレイルは少し困った顔をした。


「いや、わかんないよ。ジェイドなんて名前は聞いたこともないし......多分傭兵上がりだよ。」


「ばか。そんな事わかってるよ。しかし、わかんねえな......ジェイドはどうした?」


「合格だって伝えたら、満足そうな顔で一言礼言って帰ってったけど。」


「そうか......ジェイド、ねえ。」

俺は面白そうな予感に、1つ含み笑いを漏らした。





 俺は試験を受けた訓練場を出ると、盛大にため息を吐いた。


(試験の相手が国でナンバー3の騎士団長ってどんなお笑いだよ......)


 喉が痛いほどに渇いていたので、背負っていた布袋から水筒を取り出して飲むと、ひと仕事終えたような達成感が込み上げてきた。


 だがそれと同時に、一抹の不安もあった。それは久々の強者との戦いで、かなり愚直に木刀を振り回してしまったからだ。32歳で騎士団に入るためには、それなりの腕は必要になるはずなので、1つ位搦手を披露した方が良かったのではないか、と今更後悔しているのだ。なぜなら第3騎士団に顔を売り、すぐに出世する必要があるからだ。


(過ぎた事で後悔してもしょうがないか。一応合格だったし、3日後から始まる訓練が楽しみだな)


 道すがら、何人訓練場で見かけた人が歩いていたが、そのうち数人は肩を落としている者がいた。恐らく不合格だったのかだろう。彼らは地元に戻り畑を耕す事になる。


 騎士団の入団志望者は総じて若い。戦いに憧れる年ごろなのだろう。

 

 戦いに身を窶すことにならずに済んだ彼らは幸運だと思った。


 日暮れ色に染まった屋台は店じまいを始めている。


 訓練場の入り口近くで談笑する騎士たちに「戦争に行った私の夫は知りませんか」と聞いてまわる女の声が、夢の中にいるように感じさせた。




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