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アスロポリカの魔女・・・プロローグ
最後の魔女が死んだ。正確には、この手で殺してしまった。その身を焼いた火が今も燻り続けているように、両手が激しく痛む。
(ああ、やはり近衛の誰かに頼むのだった)
今更、「本物」が現れるとは思ってもみなかったのだ。どうか、怒りを鎮めておくれ――目の前の忌々しい、まるで棺桶のようなどす黒い木箱に向かって何度も唱える。
どのくらいそうしていただろう。気がつけば空が明るんでいる。手の痛みも幾分かましになった。のろのろと立ち上がり、壁に寄り掛かる。ふうっと息を吐き出すと、冷え切った空に白い軌跡を残して溶けていった。
あの魔女を殺さずとも、とっくに後には退けないところまで来ていたのだ。悔やむことなどあるものか。何にせよ、これでこの国にはひとりの魔女もいなくなったのだから、もうこの座を脅かす者は現れないはずだ。
女王・ケイプカリスはようやく安堵した。この国は永遠に私だけのものだ――金に光る瞳で街を見下ろす。
(嗚呼、なんと美しいのだろう!)
朝靄に包まれて眠る、この女王のための国。世界の何処よりも美しいこの国を、ケイプカリスは酷く愛していたのだ。