2. サインの午前
本文最後のサインのキャラクターイメージを
イメージイラストに変更しました。
(3回ノックして、ドアを開ける。「お忙しい所、失礼します。
午前休憩にお茶と、軽食をお持ちしました」)
会議室前で待機し、時計を何度も確認し、何回もシミュレーションをする。
午前10時。
コンコンコン
心を決めて、ドアをノックする。一息ついてドアノブに手を伸ばし、
回して押した途端――ガチン!
「キャ!?」
ドアノブが外れ、体勢を崩して転ぶ――瞬間、反対の手ですがりつくように、
キャスターをつかんでしまった。
(しまった! )
そう思った時には、キャスター共々倒れ、家紋入りの食器、スプーン、フォーク、
ナイフは互いに打ち合いながら、ハデに床に叩きつけられて、悲鳴を上げ、
朝の邸に響き渡った。
会議室内は、一体何事かとドアに一同の視線が集まる。
1人のタキシードを着た中年の男性が、大きなため息をついた。
「ちょっと失礼。皆さんはお気になさらず、続きを」
一言断り、席を立つ。
「それから、申し訳ございませんが、休憩はまた後程ということで、
ご理解願います」
ドアの前で思い出したように振り返り、一言告げて一礼する。
ドアがゆっくり開き、影が覆ってきた。ビクつき、ゆっくり顔を上げると、
オーナーが怒りと呆れと困った表情を滲ませ、見下ろしている。
「オーナー……また、やってしまいました……」
恐る恐る口を開き、顔色をうかがう。
「すぐに、すぐに片づけますから! 」
こういう時には便利な体だった。割れた食器類程度では傷つかず、
すぐに片づけられる。
「サイン君」
オーナーは口を開くと、落ちていたベルを鳴らす。
すぐに別の使用人が3人、駆けつけて来る。
状況を一目見て、あっ! と固まる。
「こういうありさまだから、すぐに片づけと代わりの用意を。
どのくらいかかる? 」
3人は顔を合わせ、調理場の状況や人員配置をあれこれ相談する。
その様子を、固唾を飲んで見守るオーナーとサイン。
オーナーは時折、腕時計とドアを交互に見ている。
「オーナー、2,30分あれば……」
あれこれ決まらないという具合で、1人が2人の合間から、
顔をのぞかせ返答した。
もう1人の使用人が答える。
「私は、調理場に伝えてきます」
最後の1人も、オーナーの顔を見て、お辞儀する。
「よろしく」オーナーもそれだけ伝えると、踵を返し、
走って行った。
それぞれの使用人の後姿を確認した後、オーナーはフーッと
ゆっくりため息をついてしゃがみ、ナイフやフォークを手に取る。
辺りには、軽食のパン類やビスケットも散乱していた。
「サイン君」
ゆっくり名前を呼ぶ。
「すみません、すぐに片づけますから! 」
顔を上げる。
「サイン君。割れた食器は、ほうきとちりとりの方が早い」
「す、すみません! すぐに持ってきます! 」
すぐさま立ち上がり、用具室へ向かった。
サインの姿を見送った後、オーナーは立ち上がり、惨状を確認する。
来賓用の、家紋が確認できなくなったプレートを見てつぶやいた。
(これ、高かったんだよな)
目を離したスキに、サインは飾ってある花瓶に体当たりし、
重力に抗うことができない花と花瓶は、見るも無残な
次の犠牲者となった。
(あれは、貴族認定の記念品だったな……)
カーペットに水が染みこんでいく。
(もっと分厚いカーペットを敷いていれば、割れずに済んだかもな……)
ベルで知らせる間もなく、別のメイドが駆けつけてきた。
その恒例ともいうべき光景が一段落した後、彼は静かに会議室へ戻った。
――この後、サインは通算何度目になるかわからない呼び出しを受け、
オーナー室へ向かった。
今回はサインのキャラクターイメージを差し替え、
イメージイラストを挿入しました。
元ネタは『セガガガ』(セガ 2001年)の偽ゲーム集028
「トロメイド」からです