1. 新川邸の朝
――ゴンゴン! ゴンゴンゴン!
ハッ! と目を覚まし、思わず周囲を確認する。荒いノックと、
自分を呼んでいる声が頭に響く。
どうやら、机にうつ伏せになったまま眠っていたらしい。
手元には、作りかけの簡単な音声入出力ができる簡易自動掃除機。
時計を確認する。
「5時!?」
まだまだ、起きる時間ではない。
「新川くん、新川くん! 起きてる!? 起きてくださ~い!! 」
どんどん荒々しくなるノックと、叫び声。最悪だ。
「ハイ! ハ~イ! 今開けます! ちょっと待って! 」
口を開き、自分の声で急速に意識がはっきりするのとは裏腹に、
おぼつかない手足でドアノブに
たどり着く。急な寝起きで、心臓がバクバクしている。
「ハイ……まほちゃん……どうしたの? 」
「ハイ! お願いがあってきました! 」
「お願い? 荷物もって……部活あるの? 」
「ちがいます、新川くん。わたし、部活やってないでしょ」
「じゃあ、どうしたの? 」
「今日限りで辞めようと思って! 今日のバイト代要らないので、
そういうことでお願いしますね! 」
悪びれる様子もない笑顔で、明るく言い放つ。そのくったくのなさに
呆気に取られ、数瞬おいて言葉を理解する。
「ちょ、ちょっと待って! 」
彼女は人差し指と中指を額に当て、「ジャ! 」と軽いウインクをし、
バタン! とドアを閉めた。
足音が一目散に玄関へ向かっている。
「まほちゃん! ちょっと待って! 」
ドアを勢いよく開け返し、すぐさま追いかけるも階段で足がもつれてしまう。
「ぬわああぁぁ! い、痛て! いてててて! 」
重力と慣性の成すがまま、体を床まで叩きつけられる。
「きゃあ~! だいじょうぶですか~っ!? 」
玄関でまなちゃんが様子をうかがっている。
起き上がろうとする意志とは裏腹に、痛みで体が言うことを聞かない。
「大丈夫だけど、大丈夫じゃな~い! 」
「新川君と後のことは私達に任せて、まほちゃんは行きなさいな」
ちょうどいい所に、隣には友理姉さんがいた。
「友理姉さ~ん! まほちゃんを止めて~! 」
「じゃあ、後の荷物は着払いで送ってくださいね」
「わかったわ。いつでも遊びに来てね」
「はい! また遊びに来ますから! 」
自分そっちのけで話が辞める方に進んでいく。
「違う! そうじゃな~い! 」
「はぁ。朝っぱらから元気ねぇ~……で、何やってんの? 」
パジャマ姿の暁美姉さんが、ボサボサ髪をワシワシしながら、
けだるそうな目で見下ろしている。
「い、痛てて……まほちゃんが辞めるって、暁美姉さんも止めてよ」
暁美姉さんは、めんどくさそうに目を追う。
「あたいは他人に干渉しない主義だからなぁ~……いつものことだろ?
それよりもメシメシ、朝飯にしようぜ」
「今後に影響があるでしょ! 朝食よりも大事だよ! 」
「朝飯食べながら考えようぜ。こんな朝っぱらからじゃ、頭も働かんだろ」
「そうね。じゃあ朝食の支度しようか。
新川君、まほちゃんがお世話になりました、って」
「……本当に、行ってしまった」
閉まったドアを見て、唖然とする。自分そっちのけで話が進み、
思わず恨めしい顔を2人に向けた。
「それじゃ、朝食は私と友理ちゃんでしましょうか。
それまでに泉ちゃんを起こして、学校行く準備しててね」
巻姉さんがマイペースにやってくる。
「あたしゃ泉を起こしてくるから。フンフ~ン、メシメシ~っと」
暁美姉さんが我関せずと階段を上がっていく。
「ほら、新川君もせっかく起きたんだから、学校へ行く準備をして。
高校生になったんだから、もっとしっかりしてもらわないと」
口を挟む間もなく2階へ、リビングへ、調理室へ向かう。いいように流され、
僕も部屋に戻って学校へ行く準備をした。