第六話 だからモブが一番いい
学校にギリギリに着いた俺たちはそのまま朝のホームルームで先生の話を聞いた。
「なあ、太一。この学校の中にストーカーがいると思うか?」
ホームルームが終わり、俺は席の近い誠也とみなと昨日のことについて捜索活動を行うことにした。まずは情報収集から。
「いると思う。いや、いると信じたい。じゃなきゃ俺らは詰む。」
この学校なら、みなのことを観察していればなんとかなると思うがこの学校の部外者となると範囲が広すぎる。仮にストーカーらしき人を帰っている途中に見つけてもどうしていいものやら。
「まだ、何かあった訳じゃないから大丈夫だよ。」
「何かあってからじゃ遅いだろうが。なにか心当たりとかはないのかよ。」
「うーん……」
ないのか、困ったものだな。いよいよ相手の出待ちになってしまうのか。
「あ、そういえば! このまえ図書室行く前先生から頼まれたもの職員室に持っていく時落としちゃってさ〜。」
なにそのラノベのお約束は。
「そしたら、白狼くんが拾ってくれたんだよね。」
だから、なんだそのラブコメ展開は。まあでも、それでみなが白狼のこと惚れるとか……。あるわけないよな。
「それで白狼に告られたの?」
おい、誠也そんなことないだろ。ていうか男女逆だろ。
って、まさか俺まさかまたフラグを……
「おー、よく分かったね! 急でびっくりしちゃったんだよね。」
まじかよ〜、俺フラグ一級建築士じゃねーか。まじフラグ製造機じゃねーか。まあ、でもそれなら……
「じゃあ、白狼がストーカーなんじゃない?」
「お、どうした誠也。今日のお前は冴えてるな。と言いたいところだが、この学校で空気として存在している俺にしてみれば甘いぞ。」
「分かったから、泣きながらそんな悲しいこと言うなよ。それで?」
何言ってんだ、誠也。俺は泣いてないぞ、決して上を向いて歩いてないぞ。
「ストーカーは白狼ではないはずだ。告白現場を盗み聞きしたからな。」
「うわぁー、たっくん流石に最低だよ。空気だったら害にはなんないんだよ。」
「ほんとだぞ、太一。空気だったらありがたみがあるもんだぜ?」
お前ら人のこと空気空気、言い過ぎだ! しかも、お前らの言い方だと俺空気ですらねぇじゃねーか!
「とにかくだ、白狼じゃないはずだ。」
「私も白狼くんじゃないと思うよ。ふった時、諦めきれてる感じだったし。」
まあ、白狼がそこまで執念深いやつには見えないしな。ストーカーになるとか、白狼のプライドやら学校カーストやらが許さないだろう。
「じゃあ、他に心当たりは無いのか?」
「うーん、その後同じことになったのが後二人いた事ぐらいかな。」
いや、それじゃん。なにこいつ、知らぬ間にラブコメ展開起こしやがって。俺の幼なじみはフラグ回収機とラブコメ製造機なの?
「それじゃねーか、名前は分かるか?」
「うん、一人は同じクラスの宮下遊くんと……。もう一人はわかんないや。」
「じゃあ、一人目に尋問しに行くか。ついてこいよ誠也。」
「あたぼうよ、太一。」
というわけで俺らは昼休みに一人目の容疑者へ問い詰めることにした。
宮下遊。
今年から同じクラスになったやつで、正直言うとぼっちだ。
俺が思うにぼっちは二種類いて、一つ目が人に害を与えるやつらである。
彼らは自分をぼっちと認識せず、ぼっちを嫌うモブたちになにも躊躇せず話しかけてしまう。そうするとモブはぼっちに話しかけるなと言える度胸もないため嫌な雰囲気をかもし出しながら会話をする。まったく、そんな雰囲気を察して消えてくれたらぼっちしてねーだろ。
つまり、そのぼっちはそのモブの気持ちに関係なく話を続けるため何とも見苦しい空間が作り出されてしまう。
あげくの果てにはモブたちで話している中に急に入ってくるぼっちがいることもあり、もっと見苦しい空間が作り出される。
モブというものは単体では強気に出れないが、複数になった途端強気に出てくる。まあそうだよな、自分一人で強気で入れたら陽キャの仲間入りだ。
だから、一人では雰囲気だけでまだよかったが、複数になればその相手へのいじりの範疇を超えた悪口を言う。そして、そのモブたちのなかで笑いあうのだ。そんなことするから一生モブなのに……。ほんと馬鹿な奴らだ。
まあ、仕方ないのだろうな。そうしなければ次は自分にヘイトが向けられるんだから。
そして、もう一つが害を与えないぼっちである。自分が一人だと自覚し、休み時間は勉強か読書をし、部活が終わればすぐ帰るなど、極力人との交流を避けている。まったく害がない。
彼は後者の方だ。だから幾分か話もしやすい、なぜならぼっちになる原因ってなんだと思う?
不清潔、コミュ障などが主だが例外もある。それは前までは陽キャやモブだったやつが何かの出来事をきっかけにカーストが下がってしまったもの達だ。
今まで一緒にいたくせに急に態度変えられる辛さは、トラウマになるレベルなのにな。人に信じて貰えない辛さもよく分かる。
空気の読めない害悪ぼっちは不清潔、コミュ障が原因だが、害のないぼっちは例外の方だ。
そして、宮下遊も例外だ。このまえ体育の授業でペアを組んだ時は気さくに話せるやつだったから、良い奴ではあるのだろう。
「早く行こうぜ太一、俺らの飯食う時間無くなっちゃうぞ。」
「ごめんごめん、よし行くか。」
俺たちは昼休みとなったため、いよいよ宮下遊のもとへと向かった。