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始まり3

 「コウコウセイ?」と首を傾げる白く儚げな少女。

 

 高校生。この地には馴染みのないものということかもしれない。

 悠介は頷き、自分の纏っている黒い衣服を指さす。


「これ、学ランなんだけど見たことないかな?」


「はい、見たことありません」


 悠介の元いた世界ではーーいや正確には元いた国ではというべきかーー馴染みの深いこの制服のことを知らない。

 そこから察するのは、ここが日本ではない別の場所だということ。

 いや、そんなことはこの地の輪郭を見た瞬間に、理解はしていた。


 ここは悠介にとって直に見たことはない。だが、何度も画面越しに見たことはある。


 だが、そんなこと本当に有り得るのだろうか。

 悠介は顎を擦りながら思考を勢いよく回す。


(ここは"ガイア"の出発地点の光の祭壇だよな)


 彼がテレビに取り込まれる直前にプレイしていたゲーム"ガイア"は、この場所でチュートリアルを行い、それを終えたら物語が始まる。


(まさか本当にゲームの世界の中に来たのか?)


 有り得ない。あまりにも現実味が無さすぎる。

 だが、そうとしか考えられないのも現実だ。

 最初は夢かと思ったが、それにしては思考や感覚がしっかりしている。

 その時点で、何となく夢ではないことを悟った。

 悠介は一息つき、次に目の前の少女を見つめる。


(……可愛い)


 それが悠介の抱いた、彼女に対する第一印象だった。

 思春期の、普通の男子高校生である彼にとっては、対面するだけでも少し緊張する。それほどまでの"美"が、そこには体現してあった。

 

「えっと、それで君の名前は?」


 少女はきょとんとする。


「先程も言いました。私は、(ルキア)の巫女です」


 それに対して、今度は逆に悠介の方が首を傾げる。


「うん、それは聞いたけど、君自身の名前は?」


「……私に個を示す名はありません。あるのは巫女としての役割だけです」


 淡々と少女は言う。


「名前がないってことか。それより巫女とは何だ?」


 ガイアには、そのような設定はなかったはず。

 ガイアは「勇者が魔王を倒すために世界を奔走する」といった、一般的なRPG。

 そこには過多な設定などは、ほとんどない。


「……御身をこの地に呼び寄せる為の、神威の代行者。それが巫女です」


 やはり知らない設定だ。


「俺が呼ばれた理由は何だ。言っておくけど俺は普通の高校生だぞ。特別な力もなければ、特殊な知識もない。平凡な、そう、どこにでもいる至って平凡な高校生だ。そんな俺に何をさせるつもりだ?」


 チリンと鈴の音を鳴らし、少女は錫杖を揺らす。


「コウコウセイが何なのかは分かりかねますが、貴方をこの地に呼んだ理由はただ一つ。あなたに魔王の討伐をお願いしたいのです」


 ここら辺はゲームの通り。

 ゲーム内ではここで選択肢が表れて、「はい」か「いいえ」を選ぶ。

 「はい」を選べばそのまま魔王討伐の為の詳細に入るが、そこで仮に「いいえ」を選んだとしても何故か魔王討伐の為の詳細に入る流れになる。


 つまりその選択肢は最初からあってないようなものだった。

 ただ、それがそのままこの世界そのものに適用されるかどうかは分らない。


 悠介は考える。

 無理だ。

 普通の人間である自分に魔王討伐などは、不可能。

 "ガイア"の魔王は、見た目も力も完全な人外。化け物だった。

 そんなのに何の力もない彼が勝てる道理がないだろう。


(断るか。でも、ここがゲーム世界ならまず断れないし……、いや、待てよ)


 ここが本当にガイアの世界かどうかを確かめるのに、使えるかもしれない。

 この世界がゲーム内なら恐らく有無を言わせずに話が進む。だが、そうじゃない場合は別の何らかのアクションがあるだろう。


「魔王の討伐か。却下だ」


 ざわざわと周りの怪しげな連中が微かに沸いた。

 その反応から察するに、断られるとは思ってなかったのだろう。


「何故でしょう。理由を教えてください」


「理由? そんなの決まってるだろ」


 悠介は何を取り繕うこともなく、ありのままを述べる。


「俺は普通の人間だぞ。化け物退治なんてやってられるか」


「いいえ。あなたは異世界から神威によって導かれた、この世の救世主。つまりは勇者のはず。その貴方が普通なわけないでしょう」


 彼女らのこの生きた反応、それに加えて異世界という認識。

 どうやらここはゲームの中というよりは、ガイアと同様の形をしている異界だと考えた方がよさそうだ。 

「そんなことを言っても、俺は何の力も使えないんだが」


「その身の何処かに聖痕が刻まれたはず、それこそが異能の証」


 彼女はそう言うが、当然そんなものはない。

 それを告げると、目の前の少女は「……」と絶句する。

 が、すぐに我を取り戻す。


「そんなはずはありません」


「いや、そんなはずないといわれても事実だし」

 

 そう言い返すと、少女は困ったように眉を八の字に寄せ、


「すいません。脱いでください」


 そう言った。

  




 



 

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