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始まり2

 テレビの中に飲み込まれた悠介は、無機質な世界の中を浮遊するように彷徨っていた。


(ここは何だ)


 前も後ろも上も下も右も左も、何もかもが砂嵐のような無機質な場所。自分が何処にいるのか、落ちてるのか上がっているのかも分からない。

 永遠に同じ景色が果てまで続き、それに伴って耳障りで不快なノイズも彼の元に響き続ける。

 

(これは夢か)


 そう思い、自分の頬を強く抓ってみるも、その痛みだけはしっかりと認識できた。

 どうやら夢ではなく現実のようだ。


(何なんだよこれ。俺はどうすればいいんだ)


 わけも分からず彼は目の前を進むが、景色が全く変わらないため本当に進めているのかも分からない状態が続く。

 不安だ。ただ、進み続けても同じ世界が続いてるだけ。


 そうして無機質な世界の中を彷徨っているとチリンという鈴の音が一つ、悠介の耳に届いた。


「……今度は何だ?」


 辺りに満ち溢れる不快なノイズに混じってはいるが、しかし不思議と鈴の音だけを正確に聞き分けることができた。

 チリンと。

 また美しい鈴の音色をノイズの中から拾い上げる。

 まるで路傍の石の中に紛れて煌めく宝石を見分けるかのように、鈴の音だけが鮮明に分かった。


「俺を呼んでるのか」


 それが何を意味することなのかまでは分からない。が、何故だか誰かに呼ばれてるような気がして、悠介はその感覚が示す方向へと舵を切った。

 チリンチリンと鈴の音が鳴る。

 こうすることが正しいのだと彼は思った。

 根拠はない。もはや感覚の問題だ。


 悠介は進み、一定の間隔に至る事に鈴の音が鳴り渡る。

 それはまるで悠介のことを歓迎するかのようだ。


 そして悠介は鈴の音に導かれるままに突き進み、そこまで至ったのだった。


「……ここは」

 

 悠介は立ち止まり、顔を上げる。

 目の前には巨大な扉が聳えていた。

 鈴の音が聞こえるのは、その先からだ。

 悠介は扉の元に近寄り、そっと触れる。

 と、ギギギギギと音を軋ませながらその扉は、中心から縦二つに割れるように観音開きに開き、心地の良い青い風が扉の先より溢れ出し、悠介の頬を撫でる。


 この扉が何なのか。ここより進めばどうなるか。

 何もかもが分からない。本当なら警戒して、進むことを止めるべきなのかもしれない。

 だけど、


(行くか)

 

 悠介は歩みを止めない。

 鈴の音に誘われるように扉を通り、その先の光の世界へと飛び込んだ。



 ーー扉の先には、見覚えのある世界が広がっていた。





 とんと光の中から祭壇の中心に降り立ったのは、

 黒髪黒目に中肉中背の、全身に黒い衣服を纏った一人の青年である。

 白い少女は錫杖を握る手に力を込めて、目の前に顕現した神威に対して警戒する。

 彼女たちが今行ったのは、神威の召喚。

 つまり神様の力を、その恩恵をこの世に齎すための儀式である。

 

 ある時は天災を退ける為に、ある時は魔を払う為に、ある時は人類の危機を救う為に。

 神へと祈る。


 しかし、それは必ずしも人類にとって良い結果が出るというわけではない。

 天はいつでも平等だ。

 神威召喚によって、齎されるものは奇跡だけではなく、災厄である可能性もある。

 そして未だどちらか分からないが故に、少女は目の前の人物へと警戒は怠らない。


「御身は、何者ですか」

 

 警戒はしつつも少女は問う。だが、何も答えは返ってこない。


「神の奇跡か、それとも……厄災でしょうか?」


 だが、それに対する答えはなく、代わりに返ってきたのは困惑の声だった。


「そんな……、ここは、ガイアの"聖ルキア皇国"の"光の祭壇"……! どういうことだよ、なんで……ありえない」


 キョロキョロと辺りを見回して、さらに困惑を深めていく目の前の青年。

 

「まさかゲーム世界に取り込まれた……、いやいや、そんなのあまりにも非現実過ぎるだろ」


 言いながらも青年はペタリとその場にへたり込む。

 ボソボソ何を言ってるのだろうか。

 少女には彼の言ってる事がほとんど分からなかった。

 だが、その姿はとても神の奇跡とは言い難く、かといって人類にとっての災厄にも見えなかった。


 全くもって無意味な人物。

 そんな印象を少女に抱かせた。


「あの、私の質問に答えてください。あなたは何者ですか」


 少女は諦めずに問う。と、ようやく青年の目が少女の方に向いた。


「えっ、あの、君は」


 今気付いたといった様子だ。

 何というか、相当鈍いのかもしれない。


「私は神威召喚によって、貴方をこの世に呼び出した"巫女"です。それで貴方は?」


 質問に質問を返されたことに対して不機嫌そうに眉を寄せつつ、少女はもう一度問う。


「……ああ、俺か。俺は、橘悠介」


 名前を聞いてるわけではない、と少女は思いながらも内心の不満を誤魔化すように一息つく。


「そうですか。それよりタチバナ様、私がお聞きしてるのはそういうことではありません。貴方が何者なのか。それを伺いたいのです」


 悠介は一瞬考え、そうして思い付いたことをパッと口に出した。


「俺は……ただの高校生だけど」


 




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