宿命 第一話
多田氏の治める三々目内は津軽平野の最南端にして交通の要所である。北方より幾多にも分かれていた道が一本にまとまり、通り越して南へ向かえば道は二つに分かれ、左側(東)に反れれば南部領となった鹿野や花輪、右(西)ならば安東氏従属下の浅利領比内。なのでこの周辺には荒れた時代でも宿屋はたくさん存在したし、後に江戸時代になってからはちょうど分かれる手前に碇ケ関がおかれ、道行く人に怪しい者がいないか監視することとなる。
その日は夕刻より本降りになった。このような土地であるので、笠をかぶった旅人が屋根のあるところを探し求める。……その行為自体に不審なところはないのだが、事が事だけに津軽氏本拠の大浦城から来た番人らが街道沿いで目を光らせていた。三時間も過ぎればさすがに伝わるし、多田氏自体もかつて浪岡北畠の両管領の一家であったので、疑わしくも思われたのだろう。……一方で三々目内館主の多田秀綱は何もせず、これまで同様に関わらず、ひたすら引きこもるつもりでいた。
私は黙って遠方より浪岡北畠が滅びるのを眺めていただけ。一人では無力だし、私の想いは無下にされた。ただし他人への怒りではなく、己に不貞腐している惨めさ。
だが真夜中のこと……、館の裏門は放たれた。門番らは自ら仕える城主の心持ちを知っているので、わざと通してしまう。もちろん相手を見たことはあったし、決して不審な人物ではない。しかも尊ぶべきお方も連れているのだから。
逃げる石堂と、御子とその母である安東の姫、数人の同士である。……多田は彼らの姿を見たとき膠着した。何をしに来た……おのずとわからぬでもないのだが……関わりたくない。今もこれからも。油川にいる水谷殿からも手紙が届いてはいたが……これも無視していた。なすべきことは何もない。
石堂らの姿はびしょ濡れで、だが服の事よりも先に、それも館の者へ勝手に“馬を取り換えてくれ”と言い、元気な馬を準備させている。……相当無理をさせたらしい。