いざ立たん 第五話
石堂は不敵な笑みを浮かべた。だがそれを吉町にとっては軽蔑のようにみえる。……仕方ない。私は大変なことをしでかしたのだ。浪岡北畠の旧臣からは……今後も同じようにネチネチとやられるだろう。覚悟しなければならない。
そして石堂、最後の問いを吉町へ吹っかける。
「せめて私はお前より浪岡北畠らしい存在だ。だがこうして笹竜胆ではなく “錫杖の先”を掲げる。津軽家の御印だ。なぜだと思う。」
さあ……と吉町は首をかしげることしかできない。顔こそ笑みを保とうとしたが、たいそう引きつっていたことだろう。石堂は“わからぬか”と相当残念な素振りをし、次には大きくため息をした。
”石堂頼久。
水谷殿の遺志を継ぎ、亡き御所号の御子と母である安東の姫君を秋田へとお連れ遊ばす”
一斉に石堂の兵どもが吉町の行列へ襲いかかった。吉町はというと呆然として……立ち尽くすことしかできない。何が起きているのか把握できない。田畑の続く道中にて、敵は周りにいないはず……。石堂は大声を発てる。
「わかったか、吉町。錫杖の訳は、津軽領内より逃げるためだ。為信の兵に扮して、すぐに領内より抜ける。」
”私は、強く生きることにした”
次には石堂自らも抜刀し、吉町の首元へ刀の先を光らせた。吉町は……力を失いその場にへたりこむ。……さぞかし恐ろしかったようで、立派な装束で着飾っていたのだが……事もあろうに股間が次第に濡れていった。小便は地べたへと流れ出で、無様なことこの上ない。
石堂はそんな吉町を見て……斬るのをやめた。殺める価値もない。刀を鞘へと戻し……手下の者が御子と姫君を確保したので、長居はいらぬと早速立ち去った。
吉町弥右衛門はその後……津軽家中にいづらくなり、どこかしこへ逃散したという。