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いざ立たん 第四話
「その旗は無意味だと思わぬか。」
石堂は吉町へ語りかけた。二人は共に御子の隣にて歩調を合わせながら進む。
「いやいや……これこそ浪岡北畠の御印ではありませぬか。」
「ほう……お前が言うか。」
吉町は言葉に詰まった。顔こそ笑みを保つが、心は一瞬にして冷え切る。
「吉町殿……。すでにあなたは浪岡北畠ではないのだから、早めに捨てなさった方がよい。」
……石堂の言葉の真意は何か。吉町は困惑するばかり。石堂は……話を一方的に続けた。
「ところで……蒔苗という奴を知っておろうな。」
「いや……初めて聞きましてございます。」
「知らぬはずはないだろう。お前の仲間ではないか。」
もちろん知ってはいるが……石堂の耳にも入っているのか。……答えづらいことを。石堂は構わず吉町を追い詰める。
「なんでも源常館の使用人であったそうではないか。……このたび名前にちなんで、蒔苗村を戴いたとか。なぜであろうの。」
……こやつ、答えを絶対に知っている。……裏切り者へのあてつけ。吉町としては、知らぬ存ぜぬで突き通すしかない。