いざ立たん 第三話
御子とその母親は、籠に乗せられてゆっくりと進む。旧暦七月九日昼、折より空はぐつつき、小雨が吉町の一行に降り注ぎ始めた。……それは二十人くらいの行列で、田畑の広がる道を進む。いたるところに掲げられる白地に笹竜胆の旗ざし。進む者すべてが烏帽子をかぶり、あたかも公家のような出で立ち。輝かしく飾り立てられた腰の刀、頬には薄化粧。
吉町は籠の横で御子を守りながら歩く。……すでに浪岡北畠は滅び、この子の運命というものもおぼつかぬ。運良ければ生きながらえることもできようが、今は戦国の世だ。用済みとなれば毒を盛られるか川に沈められるか。……だが、すべてを見なかったことにする。これから起こることすべて。……そうしなければならぬ。私はこれから津軽家の忠臣として歩む。二度と裏切らぬ。あのような想いはいらない。
……すると向かう方に、なにやら物騒な集団が十名ほど。吉町にとって不穏な感じがしたが……旗ざしを見てみると、“錫杖の先”。白地に赤く描かれている模様で、津軽家の御印である。
近づくと……見知った顔であった。彼は列の先頭に出てきた吉町へ親しく話しかける。
「吉町殿、お役目ご苦労にございます。」
吉町も笑顔で返す。
「おお、石堂様……。これはどういうわけで。」
「様付けなどいらぬ。もう浪岡での上下関係は無意味なのだから。……このたびは吉町殿だけでは不足ということで、我らも合わせて大浦城まで警護いたすことになった。」