いざ立たん 第二話
……田畑が増えて、そこへ人が入ったわけではない。奪い取ったところへ人が入った。それではこれまでと違わぬ。為信は事を成した結果に唖然とした。……いや、己の領土になったということに意味がある。これで将来、岩木川の治水を行う際に何も隔たりがなくできる。“防風”と“治水”、自らが掲げる両輪が回り始める。この二つによって田畑は増え、在来の者と他国者の差はなくなり、誰もが安楽に暮らすことができる。
そのために、心を鬼にする。津軽は一つにまとまらなければならぬ。……亡き御所号の御子を、大浦城下へ移し賜う。そして御子の母親である安東の姫君。彼女が津軽家におりさえすれば、津軽と安東の盟約が絶えることはない。それに我らには浪岡の賊徒を退治したという名分がある。
“殿、兵を大浦城へ引き上げるのでございますか”
“うむ。浪岡はまずもっておさまるだろう”
“では、水木館はどうなさりますか”
“……数日待ってみてもいいだろうが、降伏せぬなら難癖付けて大釈迦同様にすればよい。……こちらは長らく待ったのだ。これ以上いらぬ”
旧暦七月八日。津軽為信は数多くの将兵を率いて大浦城へ引き上げた。浪岡には兼平綱則と兵八百を置き、後から大浦城より二百を送り、併せ千兵が防備にあたる。
御所号の御子は、追って吉町弥右衛門が銀館より移し賜う。彼は……亡き御所号を裏切った張本人である。