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津軽藩起始 浪岡編 (1577-1578)  作者: かんから
第九章 水谷利実凶死 天正六年(1578)晩夏 旧暦七月六日
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あせり 第四話

 水谷(みずたに)(とし)(ざね)は浪岡へ戻り、本心ではないが為信に屈することを決意。ただしそれまで水木館(みずきかん)が落とされないとの保証はないので、浪岡方面に向けて何通も書状を送ることにした。




 “まずは(とし)(あき)に向けて。屈しないことは素晴らしいが、御身を大切にせよと”



 “次に()目内(つめない)多田(ただ)殿へ。彼は両管領として私と共に浪岡を支えた同士。利顕を説得してくれと書こう”



 “敵方の兼平(かねひら)綱則(つなのり)殿。彼は一年以上交渉のために浪岡へ身を置いた。信頼はできるし、何かと心情は近かろう。なにとぞ便宜を図ってくれと”






 ……そして書いている内容が自らの養子の事ばかりだなと後になって気づいた。そんな自分に水谷は嫌気(いやけ)もさす。血は繋がらないこそすれ、幾らかは肉親としての情も芽生えたらしい。こともあろうに相手は川原(かわはら)御所(ごしょ)の忘れ形見だぞ。なんとも恐れ多い……。だがそんな自分も好きだとも感じる。




 さてと……あらためて筆を手に取った。


石堂(いしどう)殿……。敵方にいると噂で聞く。……このままでは御所号(ごしょごう)御子(みこ)が危ない。少しでも為信が消すような素振りを見せたら……構わず助けよ。どんな手段でもいい。連れ出して、秋田へ逃げろ”






 辺りは()け、背中側の山々はひたすら暗いだろう。だが目の前の小窓を開くと、いまだ消えぬ油川の(ともしび)。船員や外から来た商人らが呑みに歩いているのだろうか……油川の城中からも町の喧騒けんそうと輝かしいさまがしっかり(のぞ)める。




 ひとまず書き上げた書状を(あき)(ただ)の兵に任せ、彼の去るのをそのまま一室で見送った。さらに水谷はまた書き始め、名前だけは抜いて数枚同じ内容を書き上げた。


 ……さて、誰に送ろうか。悩んでいるうちに、今までの疲れが体を一瞬にして覆いたて、……睡魔は水谷の気力を奪った。




 目覚めたのは従者が呼びに来た丑の刻(午前二時)。これからひそかに城を抜け出す。ふと横を振り向くと……書いている途中だった書状がなくなっている。書いていたのは”夢の中”であったか。


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