顕範の血 第二話
以前より私の中には父の顕範と同じように、“南部氏には従いたくない”という気持ちがあったのだろうか。それとも今更ながら芽生えてきた感情なのか。……賊の正体が為信の兵だとして、南部へ助けを求める。一生頭が上がらなくなるだろう。あの強勢を誇った名門が、人の助けなしにはやっていけぬ。逆に賊徒が南部の手引きだとしたら……よくよく考えると、ありえないことがわかる。少しだけ時間を費やせば、外ヶ浜の軍勢を浪岡へ置くことができたのだから。……いや、実効支配を強めるための策かもしれぬ。ほら、やはり独立独歩では立ち行かぬであろうとでも言いたげに。
考えても埒が明かぬ……敗軍の将は、兵を語らぬべきだ。黙って胡坐をかき、腰の太刀を鞘から抜く。偶然にも隣にいた者に、介錯を頼む。……当然の如く、兵らは顕忠の暴挙を諌めようとする。だが腹が決まった以上、考えをかえるつもりはない。
兵らは思った。ここに集いしは源常館に長きに渡り仕えた者ら。故にこの一族の考え方というのは重々承知している。……行動が違えども、内なる原理は全くもって同じ。どんなに説得しても、殿の考えを変えることはできない。
日は変わり旧暦七月四日の未明。北畠顕忠は自害した。道行く人々には見えぬようにわざと奥へ奥へと進みゆき、元来た方から音が聞こえなくなった処を見計らい、改めて顕忠は茨に座す。兵は勢いよく刀を振り下ろして首を切ったという。
……皆々涙し、後追いをしようと考えた。だがそれは顕忠より止められていた。息子の顕氏を頼むとの一言で、生きる理由が与えられたのだから。……定説によると浪岡御所陥落の同年に“病死”したとなっているが、これこそ疑わしい限りである。