あろうことか 第五話
石堂は勢いよく燃える大釈迦館を見て、まともに立っていられない。足元はふらつき、仕方なくその場にしゃがみこむ。大釈迦館を囲む軍勢より前へ出でて、ただただ燃えるのを眺めることしかできない。
……館より逃げる者は容赦なく殺され、選択肢としてあるのは焼かれるか斬られるかのどちらかのみである。
己の無力さ。己の不甲斐なさ。心底嫌になる。かといって、話を聞こうとしなかった奥寺も馬鹿だ。大馬鹿者だ。なぜ死ぬことを選ぶのだ。
……近くまで森岡と板垣が検分のために歩いてきたが、偶然にも石堂の姿を見つけてしまった。話しかけようとしたが、……なぜか後姿にものすごい何かが感じられ、言葉を発するのは躊躇われた。その間も大釈迦館は燃え続ける。
油川の援軍はついに現れず、これは津軽南部両軍の直接対決を避ける意味合いなのだろうか。準備が整っていないといっても、半日も経てば攻め込めるだけの兵は揃うし、なんといっても油川には浪岡北畠の管領である水谷利実や一門の北畠顕氏もいるので名分は立つ。戦おうと思えば戦えたはずだ。
その日は大いに乾いている青天の日であったので、火はメラメラと燃えあがった。囲む兵らには館は遠いので悲鳴が聞こえることはない。だが十分に想像はつく。……黒い煙はひたすら空へ上りゆき、きっと山向こうの油川にも見えていることだろう。
悲劇。少しでも奥寺に柔らかい考えがあったのなら、こうはならなかった。ならば奥寺がいけないのか。……決してそういうわけではない。