あろうことか 第三話
「従うなど……考えなどござらぬ。」
石堂はなんとか応えをひねり出したが、奥寺はおさまらぬ。拳を硬くし、今にも殴りかからんとする勢いだが……それでも同じ浪岡北畠の者。なんとか怒りを寸のことろで止め、手一つで座るように促した。
石堂はその素振りをはじめ理解できなかったが、ござの方へ手を動かしているので座れということかとわかった。恐る恐るござに座り、……奥寺の顔を窺う。
「ふん。その様子を見ると……お前は為信と通じていなかったのだな。」
「……それは、いかなる意味で。」
「そらあそうだろ。あそこまで華麗に落としきったのだ。家来衆の中で手引きがあったものと見受けられる。」
石堂は何も言えぬ。目の前のことに精いっぱいで、周りを俯瞰的に見ることをなおざりにしてきた。……だが石堂にも言いたいことがある。奥寺殿、自分の置かれた立場をご存知か。
奥寺は一つため息をつく。そして石堂へ言った。
「それでもの……あちら方にお前も、多田もおる。逃げ込んできた者から聞いたが……御所号の御子も生きているらしいではないか。この二人がいれば、やすやすと為信は御子に手を出せまいて。」
わざとらしく笑い声を出す。石堂には……何か悲惨なものを含んでいるようにも聞こえた。