名分の元に 第三話
さて、その五十名に石堂頼久という武者がいた。生き残った者の中でも格が高く、浪岡北畠においては両管領の多田と水谷の次に偉い。彼も水谷らと共に油川へ行くつもりであったが、急に自分の奥方が亡くなったため浪岡に留まっていた。
川原の本陣にて石堂は為信に問う。
「御所号は果たして何処へ。」
「いま探させてはいるが……御所の中には見当たらぬそうだ。ならば生きているのではないか。」
為信は石堂らに対し、いらぬ期待を持たせてしまう。悪意はないのだが、悪い気がしてならない。
「……ほら、山々には逃げ隠れている民が大勢おる。あの中にいるやもしれぬ。明日にはお主らに手引きをしてもらう故、今夜は体を休めて待つが良い。」
石堂ら浪岡北畠の者は落胆し、かといって為信に問い詰めても何も進まぬ。その中で真相を知っている者も、もしや生き延びているのではと考えてしまう。……己が悪者になりたくないだけだ。
為信の横に座る沼田祐光。次いで石堂らに語りだす。淡々と落ち着いて、それも諭すように。
「吉町殿の銀館には二歳になる御子と母である安東の姫君がいらっしゃいます。……あまりいいたくはありませぬが、もしものことがあっても……御子さえいれば、北畠のお家は成り立ちます。あなた方も懸命に盛り立てていけばよろし。」
ここで“もしものこと”と言ったが、“もしも”はすでに起きている。……石堂らが哀しく引き下がった後、為信は賊とされた者らから報告を受ける。