表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
津軽藩起始 浪岡編 (1577-1578)  作者: かんから
第一章 松源寺の会見 天正五年(1577)初春
7/102

戌姫と信元 第一話

 それは紛れもない証拠だった。すでに紙はしなびているが、字ははっきりと読める。……(ため)(のぶ)の懐刀、沼田(ぬまた)祐光(すけみつ)が同志に送った密書だ。

 (のぶ)(はる)は苦笑しながらも読み進めた。(せん)桃院(とういん)に容赦ない。とりあえずは耳を塞ぐことなく聞いてはいるが、思考は止まっている。受け入れることのできぬ事実。


「……であるからにして、沼田はこのほかにも同じような文書を(まん)次党(じとう)などの親しい者に送っております。」


 再び、心の鼓動が早まっていく。……ありえぬ、ありえない。それでもまだ確証はない。このままでは信治に負けてしまう。彼女はわざと信治を睨みつけ、強めに話し出す。




「森岡様。……この書面のどこにも主人の字と花押がない。あくまで沼田が指示をだしたこと。主人がやったことにはなりますまい。」


 信治は思わず笑ってしまった。後ろの二人はただただ、彼女と信治の話を見守るのみ。



「おかしいことを言いなさる……戌姫様。沼田が動いているということは、確実に為信の命を受けております。あなたが一番ご存じなはず。」




 彼女は思わず、悲鳴を上げた。信治と、彼に付き従っている二人、外で密かに聞き耳を立てていた子供らも、……時は止まる。


 …………




 しばらくたち、日は西の海と山の狭間へ落ちいく。いまだ揺れる彼女は“お帰りください”とだけいい、その場より去った。……信治は落胆する。戌姫が立たなければ、勝算はない。腰を上げようにも立つことできず、その病人は連れの二人に支えられ、その場を後にした。



 森岡信治はそのちょうど一か月後、五月の雨がちな日にこの世を去った。だがその意志は無くなることなく、誰ともなく受け継がれていくのである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ