卑怯 第四話
他国者ほど卑怯な人種はいない。訳あって違う土地に流れ着いたのであろうが、それだけ及びもつかぬ苦労をしている。騙し騙されているうちに否応なく知恵がつく。生き残るためにはなんだってしてきた。面松斎こと沼田祐光はそれを極めた人物ともいえる。津軽為信の家来となって忠義を尽くす傍ら、己を含む他国者の勢力拡大を目指す。
以前より為信は掲げていた。
“防風と治水がなれば田畑は増え、すべての者は豊かになる。そうすれば在地の者と他国者に差はなくなり、争いや苦しみもなく平和に暮らせる……”
治水のためには岩木川水系の一元管理が必要。川沿いに位置する諸勢力が一つの意志を持って動く必要があり、そのための“津軽統一”である。
沼田はこの為信の意に賛同した。だからこそ為信の誘いを断った浪岡は悪であり、容赦なく取り潰す対象であった。経緯こそあれ、沼田の策に情けはない。
浪岡は滅びる。下った者は許すが、従わぬ者らは死を、逃げた者は路頭に迷えばよい。かつての私と同じように……沼田はこのように考えたのかもしれない。
彼の策通り、事は進む。搦手門(西門)より入ったヤマノシタら野郎どもと、同じような恰好に扮した為信の兵三百。北畠顕村の身柄を盾に堂々と城門を押し通る。まず検校館を固め、無血のうちに占拠。中の者らは恐れおののき、武具の備えもロクにないので震えることしかできない。ひとまずそこへは三十人ほど残し、他の者らは堀に架かる木橋を渡り、続いて西丸(西館)そして本丸(内館)を目指した。