終末 第五話
天正六年、旧暦七月三日。
昨日の厚くて黒い雲は抜けて北東へ去った。風は反対の南西より吹き、なにか心地よくも感じさせた。夏の終わりであるので、皆々暑さに疲れ切っている。やっとのことで涼むことができるようだと、門番などは気を緩めて柱に背を倒してくつろいでいた。
……ぼんやりして林の方を眺めていると、……なにやら物騒な集団がこちらへ近づいてくる。身なりは粗雑で、汚らしい限りである。大勢で来るので匂いもそれ相応に漂ってくる。
朝から何事かと思い、門番は目につくヤニを指で取り除き、手前で止まった野郎どもへ問いかける。すると野郎の一人が、縄で絞められている麻衣の男を先頭へだした。
門番は当然、そいつは誰かと問う。すると野郎はどすを利かせた声をだした。
「お前ら、主君の顔も知らぬのか。」
そのように言うので、門番らはまじまじとその捕らえられている男の面を覗いた。……すると衣装こそ汚らわしい召し物であるが、御所号の北畠顕村その人だった。門番らは急に身構え、槍を手に持ち“通させてなるものか”と野郎どもを睨んだ。だが御所号があちらにいる以上、何もできやしない。槍を持ったその格好のまま道の端へ引き下がり、黙って彼らが通り抜けるのを見逃すしかない。
いったい彼らは何人いるのだろうか。正面にいたのは不埒者らと思われるが、……汚らしい衣装こそ同じこそすれ、体つきがいやにしっかりしていて、しかも身ぎれいなら者が後ろからぞろぞろと入ってくる。彼らの方の数が多いかもしれない。武器も槍や刀などしっかりしたものだ。百、二百、三百……。