終末 第三話
野郎どもは一斉に顕村へ群がり、体の至る所を痛めつけた。腹に拳を入れると、硬い筋肉がそこにあるわけではないので、そのまま内蔵にもあたる。骨だけは硬いので胸などを殴られてもその奥の物は守られるだろうが、やはり何度ともなると限界がきて殴られた痛みとは違う、形容しがたい嘔吐きを覚える。
顕村は叫んだ。なぜこのような仕打ちを受けねばならぬ。早く吉町よ、助けよ。なぜそこで立っているだけなのか。痛い、苦痛だ。すべてが嫌だ。この際は誰でもよい、どなたか助けてくれ。
ある野郎は顕村がうるさく叫ぶのをやめさせようと、口に向かって拳を向けた。すると畳の上のヤマノシタ、怒鳴り声をあげる。
「顔だけはやめろ。」
野郎どもすべて、ヤマノシタの声で動きを止めた。いままでうるさかったのが一気に静まり返り、まるで遠くのフクロウが聴こえるかのようだ。
顕村は体を動かせない。激しいしびれや痛み、加えてあとから湧いてきた惨めさもある。だがそれでも口だけは動かせる。精一杯の声でヤマノシタへ問う。
「なぜ、顔はだめなのか。」
ヤマノシタからしたら、なぜその問いになるかわからない。本当は”なぜこのような目にあっているのか”という問いを期待していた。まあでも答えてやらんことはないと思い、やさしくも言葉を返した。
「御所へ押し入るとき、お前の顔がわからんでは通してくれぬだろうに。」