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津軽藩起始 浪岡編 (1577-1578)  作者: かんから
第六章 浪岡御所陥落 天正六年(1578)晩夏 旧暦七月三日朝
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終末 第二話

 この際に至っては、粗雑な麻の着物は無意味である。正体がつい先ほど知れたのだから。牢より出した時は当然驚いたことと思う。“あの大盗賊の(れい)山王(ざんおう)が、実は御所号であった”と。


 顕村は内心面白くなり、向かう暗い道中でニヤつきながら歩いた。


  “このような場所にお忍びでいらっしゃっていたのですね”


  “この度は助けていただき、誠にありがとうございます”




 横を歩く(よし)(まち)。自分の感情が変に渦まき、どのような向きで出ていくかまったくわからない。哀しいのか、苦しいのか。せめて楽しくはない。喜びもない。……ならば、()の向きであろう、()い目の心が一番濃いのか。




 今決断をすれば……戻ることもできる。代わりに自分だけが獣の餌食になり、骨になり果てる。



 きっと吉町は心を隠しきれず、表情にもでていたはずだ。だが顕村は浮かれていて、いちいち吉町の顔などに気づかない。気を止めない。













 野郎どもは、笑顔で待ち構えていた。顕村はいつもと同じように、四角く囲まれた小さめの木口より体を曲げて入る。その先の土間で勢揃せいぞろいして男どもが待っていた。並んで立っているのは異様ではあったが、なにか行儀よくも思えた。それもそうだろう、顕村の正体がわかり、逃げうせていた者捕まっていた者どちらも感謝の心を向けてくるだろうから、当然の姿勢である。






 ……吉町は黙って顕村の隣より離れた。代わりにヤマノシタ、賭け場の襖をあけて姿を表した。奥には珍しくも長谷川(はせがわ)三郎(さぶろう)兵衛(ひょうえ)。普段は表の人間であるし、こちらに顔をだすことはなかった。……でもこのたびの事だ。特別に礼をつくすのだろう。





 ヤマノシタは右手を胸のあたりに上げ、



 人差し指を少しだけ内側に折る。





 それが合図だった。


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