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津軽藩起始 浪岡編 (1577-1578)  作者: かんから
第六章 浪岡御所陥落 天正六年(1578)晩夏 旧暦七月三日朝
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線香を挿すか置くか 第三話

 わざと誰も立ち上がらぬ。僧侶の唱える経だけが、御所の仏間にこだまする。当主の北畠(きたばたけ)(あき)(むら)は誰も動こうとしないのに堪られなくなって、自ら目前にある仏壇へ向かおうとした。だが管領の水谷(みずたに)に静止される。“御所号が立ってしまっては、誰もが(わか)らなくなってしまいます”と。もちろん顕村にはわからない。そのような裏の示し合わせなど及びもつかぬ。





 一方で(あき)(ただ)は十二分に理解していた。父の(あき)(のり)は浪岡の独立独歩を(しゅ)()として、強い意志を持ってかつ表裏を使い分けながら挑んできた。その道を息子も辿ろうとするのか。





 ひとつ、ため息をした。その場にいる浪岡北畠の家臣らすべてに聞こえただろう。決して大きく息を吐いたわけではないが、それだけ彼を注視していたからだ。各々その意図を考えるのだが、顕忠にとってはどれだけ悩んだところで、結論など変わらぬだろうにという意味合いでしかない。



 進みゆく姿を、誰もが見逃すまいとまじまじと。その先にあるのは仏壇。次には奥の仏より、手前にある砂の詰まる香炉へ視線が移る。


 顕忠は、線香一本に火をつけた。そして左手で一瞬だけ輝いた炎を消し去ると、そのまま香炉へ右手を向ける。





 線香を置いた。



 香炉に線香は横向きに置かれた。

……父が亡き今、独立独歩は夢物語でしかない。







 油川の民がするように、同じく顕忠もそうした。つまり、これまで通り南部氏に守られる道を選んだ。顕忠が戻るなり管領の水谷、次いで御所の顕村も同じく横向きに置く。後に続く誰もが横向きに置いた。もちろん最初の者が横向きに置いたのだから、それに逆らってまで線香を突き挿す者はいないだろうが、この葬儀においては別の意味を持つ。


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