滅亡への始まり 第四話
”なら、どうしろと”
”知らんわ。お前こそ叫ぶだけで、考えなどないだろ”
次には取っ組み合いが始まる。周りの野郎どもは鎮めに出るが、気持ちは同じだ。仲間が殺され、多くが捕まった。もとは他国者同士だし故郷は違う。言葉も異なるしそれぞれの性格も大いにたがえる。だが同じ土地に集った者、境遇はどうであれ助け合って生きてきた。決して許せることではない。
さらには彼ら他国者と関係の深い商家長谷川。在地の民ながら鯵ヶ沢という港町だけあって様々な人がいるせいか偏見はほぼなかった。手を差し伸べ、もちろん裏は計算づくであるのだが、上下なく利害関係をともにし、これまでそうしてきた。
……こうなった以上は浪岡からすぐさま逃れることさえすれば、己らの身だけは助かる。だが彼らはそうしなかった。したくなかった。いつしか仲間意識が芽生え、助けてやるべきだという考えが生まれた。それは生き残るために無意味な事かもしれないが、今は感情が理性を上回っている。すでに抑えきれぬ。このままおちおち帰れぬ。
……浪岡在地の賭け場仲間も一人、また一人と闇に紛れて唐牛屋敷へ入りゆく。すでに彼らも他の土地から来た彼らと固く結ばれていた。同じ野郎として、不埒者として大勢に染まらなかった者、あぶれた者。必然と親和性は高い。もとをただせば他国者とは、それぞれの故郷にいれなくなった者。さまざまな理由があろうが、それを互いに知っているわけでもないし、尋ねようともしない、する必要もない。
……ともに商家長谷川の者らや三郎兵衛、そして賭け場の仲間をいかにして助け出すか、このために集まってきた。我ら独力で牢より助け出すことはかなわぬ。……ここは吉町を無理強いして、御所の顕村に彼らを牢より出すよう命じてもらうか。いや、顕村でも長老の顕範の命令を覆せる力はないだろう。
ここであの蒔苗が勢いよく立った。言葉にならぬ大きな叫びをあげ、周りの度肝を抜く。
何か大きな決意をしたようである。