滅亡への始まり 第三話
その時、ヤマノシタは奥の賭け場で昼寝をしていた。特に日中にすることもないので、やることといえば用心棒じみたこととなるが、それは結局のところ手下の者がやってくれている。
……何かドタドタと大音を立てて近づいてくる。誰だ、己の名を叫ぶ者は。すると勢いよく目の前の木戸は放たれた。
「親父、押し入りだ。御所の兵が動いた。」
一人だけではなく、野郎どもは次々とこちらへ駆けてくる。……否応なく事態を察した。……ヤマノシタの判断は早く、集まったものを連れて裏手の小さな窓穴より身をのり出し、一目散に逃げた。……あとで合流しよう、今はばらけるべきだ。
……顕範の用意周到さは相当なものだったようで、逃げ行く野郎どもを容赦なく見つけ出し、幾人かは殺されたらしい。白昼繰り広げられた惨劇に誰もが動揺をしたことだろう。顕範は己への支持うんぬんよりも、御所の顕村を正すために動いた。そう考えてもよいだろう。……ということは、我らの存在がばれていたことになる。
逃げ切った者たちは、浪岡北畠に少ないながらも存在する為信に組する家来たちの屋敷へと押しかけた。例えば管領の多田氏自身は三々目内という離れた拠点で引きこもっているが、浪岡の中にも出仕用の屋敷はある。あとは多田氏分家の唐牛氏の屋敷であったり、あの吉町が住む銀館でもあった。ほかにもいくつか存在する。
夜、野郎どもは身の危険を冒しつつも改めて唐牛屋敷に集った。このたびの出来事、そして三郎兵衛や賭け場仲間らを助ける手段について話し合う。