滅亡への始まり 第一話 +浪岡御所周辺図
さて夏の盛りとなり、浪岡の民は祭りなどをして喜んだらしい。その醒めぬ余韻の中、商家長谷川では物が飛ぶように売れる。商いをする他の者も同じで、特に鮮やかな着物の生地がよく売れた。普段は手を出さぬ庶民らも、いつも着ている麻ではなく絹を買い求める。はっきりとした紅色や深みのある青色、稲穂のような黄色など、陰気くさくないもの以外すべて売れる。どの商家でもたんまりと儲けが生まれたので、少し高めの茶でもと油川へ買いにやらせ、蓄えがある今のうちにと銭を払って年貢以外の収穫しうる米を押えに動く者もいたらしい。
このように勢いがあると、野郎どもの懐へ入る銭も多くなる。遊びに使う庶民は多く、慣れぬ賭け事へ手を出して、そのたびに銭を吸い取られるのであった。
異常なまでの高揚。抑圧されてきた民の動き、滝本がいなくなったことで一気に噴き出る。つられて浪岡北畠の家中までもが浮かれているようにも思える。長老の北畠顕範は危惧した。浪岡の現状は何も変わらぬし、将来の独立独歩へのために耐え忍んでいかねばならぬ時に……。
かといって顕範も強く出ることはできない。いまの民の高揚は、自分への支持と同じである。しかも家中には管領の水谷など南部派も存在する。決して油断はできぬ。
すると顕範、足元を見ると長谷川という商家に何やら不審な動きが……長谷川というと、親子げんかして浪岡へ越してきたという鰺ヶ沢の若い旦那。……裏で賭け事をして、民をたぶらかしているらしい。
……詳しく調べさせてみると、家中でも夜に集う者がいる。……えっ、まさか……御所の顕村様も。その話は確かか。これまで滝本へ意識がいっており、近くをみていなかった。……顕範は頭を抱えて後悔した。そして顕村を正すため実力行使にでるのである。
戦国浪岡想定(自己作成分)
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