真相 第五話
裏でこの浪岡の行動に焦ったのは、油川を拠点とする南部家臣の奥瀬氏であった。このままでは浪岡の支持は南部氏から離れ、一種の独立勢力と化してしまう。特に浪岡北畠氏は貴種であるので表立っての軍事討伐は難しい。何か大義名分がなければ動けない。……その点でいえば敵方の為信も同じだし、特に御所の北畠顕村の妻は安東氏より迎え入れている。なので浪岡を制圧でもすれば南部安東どちらとも戦わざるを得なくなり、得というのは一時的なものでしかない。もちろん為信もわかっていた。
とにかく、浪岡北畠は扱いづらい。南部と津軽大浦、どちらにとっても。軍事的に劣っていようが、北奥における天皇家のような存在、いいすぎたか寂れたこそすれ最低でも将軍家のような存在。細川ではなく南部という守護職が御輔をし、代わりにその価値を利用する。だがこのままでは浪岡は南部より離れ、為信方についてしまうというリスクもある。為信は安東と同盟をしているし、その縁で浪岡を取り込んでもおかしくはない。
奥瀬は、滝本を浪岡から引きずり出すことを決意した。この点でのみ長老の北畠顕範と考えが一致し、両者は自然と通じ合ったのである。キーワードは“一年”。つまり天正六年の春である。
……野原には竜胆の花が咲き乱れた。それはいつもと違う何かを予期するかのように。いつしかその紫の花々は散り、風に吹き飛ばされる前に雪へ埋もれた。そして年は明け、運命の刻が近づく。
雪解けとともに北畠顕範は立った。御所警護の任に就く補佐武時を味方に、密かに奥瀬の兵を浪岡へ引き入れ、滝本に丁重に油川へ移るのを願った。これは約束通りだと。
滝本にとって青天の霹靂。まさか奥瀬と顕範が通じていたとは……決して許さぬ、顕範を。もちろん私が浪岡を去るのはかの地のためにならぬし、このまま顕範が誤った道を歩むのも捨て置けぬ。
顕範め、覚えていろ。