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津軽藩起始 浪岡編 (1577-1578)  作者: かんから
第四章 北畠顕村、策に嵌る 天正五年(1577)夏
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ヤマノシタ 第五話



 “(いち)



 すべての者の目は、その白い茶碗、その中の賽子(サイコロ)へと注がれる。……ヤマノシタは、静かに暗き中へ光を入れた。……顕村あきむらにとっては永い刻のように、実際は一瞬でしかないのだが、まるで一生の出来事のように。




 ヤマノシタは、茶碗を天井に向かって突き上げ、大声で叫んだ。



 “壱だ、大当たり”




 野郎どもは床という床、己のひざ等を強くたたき、顕村の運の強さを称えた。だがここで(まか)(なえ)が水を差す。


「しかし、何も賭けてないではないか。」



 そらそうだと、これもまた大きく騒ぎ立てる。



「では、どうですかな。手持ちの銭でも。」


 ヤマノシタは勧めた。顕村は隣の(よし)(まち)を見る。吉町は顔をひきつらせながらも、“いいのでは”と賛同した。そうして懐にあった銭の束。(さし)という縄によく似たヒモで繋がれている。これを出してみる。……すでに最初にあった戸惑いのようなものはなくなりつつある。


 ヤマノシタは同じように茶碗に入れ、数を問う。顕村は“()”と答えた。すると、これもまた“弐”であった。“(さん)”と答えれば”参“と、”四“と答えれば”四“と出るものだから、顕村は調子をよくする。周りの野郎どもも威勢よくはやし立てる。銭も、そのたびに倍々に増えていく。……実のところこれまで銭自体に興味はなかったのだが、これはこれで快感なのだなと初めて知る。最後には”大運を持つ男“として機嫌よく帰ったのである。本来の目的を忘れて。


 所詮は温室育ちの若者でだった。賭け事は勝ったり負けたりするのが常であって、すべてにおいて勝ち続けることはまずない。その点に気付かないのは、おめでたいとしかいいようがない。


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