ヤマノシタ 第四話
笑いの声が部屋にこだまする中、顕村は隣の吉町に“訳”を尋ねた。
「実に言いにくきことですが……昔より賭け事が好きでして、本性を隠して参じております。そこなる蒔苗という者は……単なる使用人風情。“まかない”を作ることが仕事なので、転じて“蒔苗”と名乗っているだけでございます。」
“そしてあちらなる賭けの元締めは……“ヤマノシタ“と申します”
“……ほう。ヤマノシタと。下の名は”
“いえ、それ自体が名前です。下賤の者ゆえ、苗字などありませぬ”
顕村はまじまじと恰幅のいい体つきの、その元締めを見た。“ヤマノシタ” は顕村の様子に気づき、笑顔で問いかける。
「それでは霊山王。賭け事は初めてですかな。」
……大盗賊なるものが博打をやったことがないのも変な話なのだが、なんと言おうか。
「上方より参ったのでの、こちらのやりかたはよく知らぬ。」
「そうか。では、お教えしよう。」
ヤマノシタは、目の前に転がっていた賽子を持ち、横に寄せてあった白い茶碗に入れ、勢いよくひっくり返した。床に茶碗の縁がつき、中が見えることはない。
「至極簡潔。上方の民は頭がよきこと。いささか込み入って難しいかもしれぬ。だが田舎の民は頭がようない。」
野郎どもは思わず吹いている。
「賽子が、何の目であるか当てるだけ。さあ、なんと心得る、霊山王。」