ヤマノシタ 第二話
……内側より、大きな怒号が響く。
「おい、誰かいるのか。」
顕村はその荒々しい声に驚き、次に恐れを抱いた。己の世界とは違う、何か得体のしれぬもの……。もちろんそれは実物だし、現に存在する。この障子の向こう側には下々の世界、それも下のさらに下。高貴の対極、野蛮であり粗雑。
頭の中にさまざまな想いが駆け巡るが、それもつかの間。吉町は内側に向かって声をかける。
「弥右衛門でございます。」
すると、内側から“入れ入れ”と無数の漢の声が続く。談笑と変わり、障子戸はそちらより開かれた……。
吉町はとまどう顕村を連れ、末席にて座す。……ここでは御所号や殿下でもない。誰もが平等であり、あるのは勝ち負けのみ。当然だが顕村はそれを理解して名前を隠すつもりだし、出したが最後、野蛮人らの餌食にされるだろう。誰も助けに来てくれない。
ならばなぜこのような場に来たのか。それは上に立つ者の務め、下々の者はどう思っているのか、直接に聴くことで、本当に必要なものが見えてくるかもしれないからだ……と思いこませた。何かが変わることは絶対だ。なおいっそう強く、心に感じさせる。感じさせることで……恐怖を和らげようとした。
顕村にとっては突然に、周りの者からしたら落ち着いた頃合いに、とある恰幅のいいごろつきは顕村に問うた。
「お主の名は、なんという。」