謀の道 第四話
意識があるのかないのか、空に月があるようにも見える。北向きなのであるはずはないのだが、目に見える幻想の世界には月はまさしくあるのだ。
ふと気づく。後ろより誰かが近づく。顕村はこれまで肘掛に横たえていたが、それを遠くへ押しのけて、体を音する方へ傾けた。そして声をかける。
「おお。……吉町か。」
目をこする。まさしく家臣の吉町だった。眠たそうに欠伸をして、声をどもりながら問うた。
「なぜに、来たのだ。」
吉町は苦笑しながら、問いに返す。
「殿下がお呼びでしたので、参ったのです。」
おお……。そうだったか。
顕村の、機嫌が悪い時には必ず呼ぶ。歳は四十ほどなので父と子ほど離れているが、なにか気が合うものがあったのだろう。
「殿下。また顕範様に言われますぞ。」
これまたどもりながら“うるさい”というものの、せっかく吉町が来てくれたので、離れて転がっている肘掛をたぐり寄せて、体を起こしてみる。吉町はというとうるさく言うわけでもなく、顕村の前で胡坐をかき、“山ノ下”の大瓶を片手に持った。これをまじまじと見る。
「ほう……。最近の好みはこれですか。お目が高くていらっしゃる。」