老獪 第四話
最初こそは一滴、そして次の一滴、何滴も折り重なるように増え、じゃあじゃあぶりの大雨となる。夕刻の日暮れは遠く岩木山の彼方へ見えていたが、突然わいた黒い雲に辺りが覆われてしまった。
浪岡八幡宮に詰める兼平は、御所で終わったであろう話し合いの始末を慮っていた。……遠くを囲む四日町、そちらへ浪岡在地の武士らが粗雑な笠などをさして帰り始めている。
何十件もの民家の先にある御所。小窓より家々へ帰る者らを覗くと、位の高い者であれば裃を、低そうな者なら紺色のサグリなど着て、刀を差していなければ侍とわからぬような服装もあった。……雰囲気はというと誰もが同じで、明るい者は一切いない。加えて言うならば、こちら八幡宮の方に顔を向けない。
“……そうか、失敗したのか”
これさえわかれば長居は不要。今すぐにでも出立し、大浦城へ戻ろう。すでに手持ちの荷は準備してある。さすがに名門浪岡北畠であるので敵になったとしても使者という立場の者を殺そうとはしないだろうし、……この偶然なる雨を使えば何事もなく浪岡から抜けることができるだろう。
そう思い、近くに侍る二人の従者と目を合わせる。三人は同時に立ち、御所とは反対側、裏口の方へ足を向けた。
すると向こう側から一人の若い侍が急いでこちらへ来るではないか。どたとだと廊下で音を立て、……私たちが目的ならば殺しに来たのか、……そんなはずはあるまい。まるで殺気はなく、どちらかとうと、何かを伝えに来たという感じだ。