老獪 第一話
滝本に次いで、水谷は別の者らに問う。彼らは愛想笑いをしなかった。
「菊池殿、朝日殿。あなたがたはどのようにお考えで。」
思わず二人は慌ててしまったが、一応は落ち着いているかのように振る舞おうとする。ちらちらと御所の顕村や長老の顕範の方を見つつ。
「私どもとしては、御所の一存に従うのみでございます。」
水谷はさらにほかの者にも問う。
「補佐殿はどうです。」
補佐は浪岡北畠家中に珍しく武骨な人物で、でしゃばって話すことなど一切ない。あまり人付き合いはよろしくないが周りも彼を認めていることもあり、のけ者にするようなこともなかった。その補佐が口を開いた。
「……同じく、決まりしことに従う。」
水谷は頷き、滝本は笑みを漏らした。多田はさらに青ざめ、あとは長老の顕範がどう出るかである。顕範は当初からだまったままで、腕を組んで口を開かない。何を考えているのかわからぬが、最後の抵抗の要となるのは彼しかいない。浪岡の独立独歩を唱えた彼ならば、きっと滝本に対して異を唱えるだろう。多田にとっては不本意だが、一つに決まりかけているこの場を乱してくれることに期待した。
しかし、顕範の言葉は多田を裏切る。
「それで滝本殿。兵の訓練を早速だが明日からやってくれぬか。」