25/102
向かう先 第四話
水谷は辺りを見渡し、皆に言う。
「ならば、これまで通り安心して南部殿へ託すのが一番よいのではないか。」
滝本はさらなる笑みで頷き返す。浪岡の家来衆はというと……いまだ”だんまり”だ。そこで水谷は家来衆の一人を名指す。
「石堂殿。あなたはどうお考えで。」
突然あてられた石堂は困惑する。横の多田に目をやるものの、多田はすぐに言い出す気配はない。しかたなく口を開いた。
「……南部殿はこれまで浪岡に尽くされてきた。これからもきっとそうだろう。……しかし恐れながら、今の南部に浪岡を守りきれますか。」
滝本はすかさず返す。
「ごもっともかと存ずる。確かに傍から見れば家督さえままならぬ。しかしご心配は無用。私がおりますゆえ。」
“かつて私は寡兵で大軍を打ち破った。正月の油断こそなければ、勝ち続けることができたのだ。”
「その兵術、抵抗の仕方。すべてを余すことなく浪岡の兵に教えましょう。」
おおいに自信がある。それに浪岡の兵力はかつての大光寺よりも多い。為信も簡単には攻め込んで来れぬ状況もそろっている。
ここで多田は耐えきれなくなって、話を遮りに入る。