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向かう先 第三話
滝本は腹から大きな声で、威勢よくのたまう。
「このたびは北畠御当主、浪岡式部顕村様にお目通り叶い、恐悦至極にてございます。」
顕村はとりあえず笑顔で返す。
「滝本殿、ごくろう。貴殿の武勇知略ともに秀でること、この浪岡にも聞こえておる。」
「お褒めいただき、光栄でございます。」
……ここまで、想定しうる問答だ。どのタイミングで事が一気に進むのか。この会話のあとすぐに言葉は途絶え、この場にいるすべての人間は互いに様子を窺う。
非常に長く感じる。実際は十分程度の沈黙だったろうが、小一時間も経ったかのようだ。
静けさが苦痛になる。……再び会話を始めたのは両脇の上座側、多田の対極に座す水谷であった。
「……元をただすと浪岡北畠は南部氏に助けられた一族。そうよのう、滝本殿。」
滝本は横を向き、笑顔で返す。
「そうですな。私もそのように承っております。」
「伊達の霊山城から逃れ閉伊の片田舎に隠れ住んでいたところを、南部の殿様が浪岡という開けたところへお移しになられた。」
……互いに本音を出すことのない、この場で出そうものなら負けとなる。