宿命 第四話
そして“期待通り”忠臣となった。だからこそ今なお抵抗を続けている。川原御所の忘れ形見、水谷利顕。十六歳の若き御子。浪岡北畠家中でも真相を知る者は稀で、兼平が思いつく人物は三々目内の多田秀綱のみ。しかもその息子の玄蕃にすらも伝えられていない極秘中の極秘。玄蕃と利顕は互いに親友というべき存在らしいが、利顕自身も明かさなかったのか、もしくは本人も知らないのか。
馬を勢いよくけしかけたので、一刻も経たぬうちに水木へ到着。乳井勢五百は松明を大いに焚き、大雨で消えさせることのないように油を大いに注ぎつつ、じっくりと水木館への包囲を続けている。“……間に合ったか”と兼平は安堵しつつ、急ぎ天幕下の乳井へ駆け寄った。
「なにも周りに敵はおらぬのですから、わざわざ夜に戦を仕掛ける道理はありませぬ。」
当たり前のことを当たり前のように言われた。乳井は不思議そうに兼平の顔を覗くが、兼平は乳井の表情お構いなしに、仔細を余すことなく伝えた。……利顕が北畠の血筋だということも。
そうであるならば話が違う。すでに殿にはお話になられましたかと乳井。いやまだだと兼平。急ぎ他の者に大浦城へ使いを送ってくれと頼み、床几(野外用の腰かけ)へと力を落として座した。これで何とかなった……だがこのまま抵抗を続けるならば、結局のところ同じである。
では誰に説得をやらせるか。最後通牒も断っているのだぞ……。思いつくはただ一人。三々目内の多田を引っ張り出すしかない。彼に津軽家の命運はかかっている。