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第二話 赤腹

 喚きながら逃げる中年と、殺気をまき散らす中年。上空から継己(つぐみ)はそれらを見下ろしていた。何もない夜空の中、見えない足場に腰を下ろして。

「酷いもんだね」

「まあ、そうだな」

 電話口の声はつれない。話し相手は地上で経過を見守る千鳥だった。継巳は足をプラプラさせて気ままに過ごしていた。結界を張ってしまったので、広範囲の見張りもあまり意味がないのだった。

「やっぱり僕も何か手伝いたかったな」

 前髪を手持ち無沙汰に弄りまわす。広い袖口のゆったりとした服越しでもわかる、細見な体躯。中性的な外見、初対面ならばどちらか判別はしかねるだろう。

「結界張りで十分活躍したろう」

「活躍って……。そんなこと思ってないくせにさ」

 結界にもさまざまなものがある。継己が今回張ったのは特定の人物以外を物理的に弾くもの。一番簡素なもので場合によっては強い物理的衝撃でも壊れてしまう。

「ちどりは僕のために無理しなくていいんだよ?」

「そうだ、君が馬鹿なのを失念していた。思い上がるな、恥知らず」

 継己が何か言う前に通話は終了していた。

「ふふっ」

 夜空に浮かぶ継己は楽しげで、寂しげだった。


 物陰から夜空を見上げる。星も月も出ていなかった。千鳥は首元を知らず掻く。仕事中なのだから気分を切り替えなくてはならない。赤原は無様な追いかけっこの末にようやく男を組み敷いていた。背中に乗り、左腕を捻りあげ、あとは右のナイフを首筋に振り下ろすだけ。あっさりとしたものだった。血が、天高くほとばしる。返り血を顔に浴びて、赤原は驚いたのか後ろにひっくり返った。ナイフはそれでも、意外なことに、握られたままだった。二、三日レクチャーしただけなのに大したものだ。千草は赤原に初めて感心した。赤原済というやつはとにかくひねくれていて、初対面から言葉尻一つ一つに食って掛かってくるようなひどい男だった。『適性』がリストの中でずぬけていなければ絶対に結びたくなかった取引だ。

 千鳥は物陰から姿を見せる。

「お疲れさまでした。では回収は私に任せて継己と先にお帰りください」

 膝をついて、ハンカチで赤原の顔をぬぐってやる。ハンカチでどうにかなる量ではないが、目に入らない程度にはなった。放心状態の赤原は生返事をして、ひっくり返ったままだった。見れば、右手だけは血の気を失って白っぽい。力が入りすぎて、手を離すこともままならないということらしい。千鳥は丁寧に指をナイフから外し、血を赤原の服で拭った。赤原は気づいていないようで、千鳥は何事もなかったかのように自分の上着の裏のナイフホルダーに収めた。ナイフは千鳥たちが用意した特別製だ。意味もなく赤原に持たせ続ける理由もない。


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