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第十一話 烏が鳴いて夜が明ける

 剣呑なまま会話は途切れた。余一のほうはわかっているのかどうなのか、自分のスマホを取り出して構わず自分の世界に入ってしまった。千鳥は、取り出したファイルをしまうのも間抜けに思えてそのまま大路のページを読み進んだ。いずれ衝突する相手である。知りすぎるということもあるまい。

 「あー、ねえ千鳥ちゃん?」

 ひととおり目を通し終えてやることもなくなったころ、余一が声をかけてきた。

「…………」

 睨んでそれに応える。

「邪魔してないのに、それって。いいけどさ。今日から千鳥ちゃんたちお日様の下は歩けないかもよー? 見てほら」

 押し付けられたスマホをみると、メール画面に漢字の多い堅苦しい文章が並んでいた。何より目についたのは添付画像で、そこには千鳥、継己の学生写真、赤原の証明写真の三枚が表示されていた。

「鶴見大介殺しの重要参考人だってさ。ひゅう、有名人~」

「鶴見大介? そんな、あの死体を警察なんかに渡せばとんでもないことになるはず……!」

 異形と化し、もはや表社会で扱えるわけがないのだ。死体があっても立証以前の問題で事件沙汰にはできない。

「よく読んで。“被害者の遺体は判別不可能なまでに焼かれ、歯の治療痕から身元特定”だってさ。ついでに“腹部を裂かれ、一部の器官が著しく損傷、消失”。持ち去られたとか言ってるよ。いやあ、最近のカラスはやることがエグイ」

 大路の役割はもとから汚れ役。十二雀のように外敵を撃退するならば、多少の血なまぐさい話も、分家の中ではそこまで悪評として響かない。大路が行うのは「分家のなかの」警備。分家の秩序を守るために密告や、監査を行う。固有の武力を持ち、怪しい話が上がれば、死臭に敏感なカラスのようにやってきて容赦なく裁断する。いつからか大路そのものが死臭のする一族となり、犯罪行為の噂が絶えない。この町の秩序そのものである八条には隷属しているので、彼らは本家からも閏木からも攻撃されたりはしない。

「国丸のおじいさんは短期決戦型だからね。ふあ」

 ソファの上でもぞもぞと継己が身じろぎした。泥のように眠っていたから、昼まで目を覚まさないかと思ったが、千鳥と番を変わるために起きてきたらしい。

「継己ちゃん、おはよ」

 でれでれと余一が手を振る。

「おはよ。夢の中で余一の声がすると思ったら、来てたんだ?」

「おっと、夢の中でも俺に会ってたってこと? 嬉しいなー」

「ちどり、寝なよ。僕が起きてる。って、さむ。なんか窓割れてるし」

 阿呆は蚊帳の外に追いやって、継己に状況の変化を告げる。大路が絡んできた原因、交喙及び十二雀の反応。そしてこの指名手配。

 継己は特に焦った様子もなく、とりあえず窓に結界を張った。そしてソファの上で自分で淹れたほうじ茶をのんでのほほんとしている。

「大路なんてちどりと僕ならどうにでもなるんじゃない」

「君なあ。確かに大路は魔法方面ではなく、物理的な武装を主にしているが、当主とかそのおそば付きになれば格が違う」

「じゃ、余一も足そう」

 夕飯に色どりが足りないから、品数を増やそう、くらいの軽々とした言葉。継己は自分が好ましく思っている人間をかなり過大評価したがる。あれはいい奴だから、すごい。気に入らないからさしずめ俗物だろう。

 そういうのは一応お坊ちゃん体質なんだろうか。似たような環境にいた気がするが、千鳥はそういった継己との差異を、時々理解できない。

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