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佐藤浩志の普通とはほど遠い日常  作者: はるのいと
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第九章 「僕は現在、モテ期真っただ中だっ!」

 モテ期――人生の中で3回訪れるという、至福の期間。これは性格・生活環境・人間関係によって左右され、期間や度合いも人それぞれだが、人生の運気の中に必ずあるといわれているらしい。

 正直なところ、僕はこのての話は全く信用していない。運気でモテるのであれば誰も苦労はしないのである。 ”現象には必ず理由がある” 男前の物理学者がテレビドラマでいっていた名言だ。僕もこの意見には大いに賛同したい。


 棚からぼた餅――思いがけない好運を得ること、労せずしてよいものを得ることのたとえである。僕はこう考える。ぼた餅は棚の隅に置かれており、ほんの少しの力が加わっただけで落ちるように計算されていたのではないか?  となるとぼた餅を置いた人間の意図的な意思を感じる。


 要するにぼた餅は落ちるべくして、棚から落ちたということだ。モテ期にも同じようなことがいえる。やつらは運気云々で訪れるのではなく、ぼた餅と同様に訪れるべくして訪れているのだ。因みに誠に手前味噌ではあるが、ただいま僕はモテ期に突入中である。


 この数週間の間に僕は美少女にキスをされ、ファンクラブまで作られ、そして地味女からポニーテル巨乳美少女に華麗なる転身を遂げた、花村柚希から告白までされたのだ。これをモテ期といわずして、なにがモテ期といえよう。


 先も述べたように現象には必ず理由がある。このモテ期についての僕の考察はこうだ。チベットの高僧、ハック・ソピャウは説法でこう説いている。  ”人間には奇跡の出会いというものが存在する” 

 奇跡というだけあって、勿論それは誰しもが出会えるというわけではない。確率でいうと、ジャンボ宝くじの1等を当てるのと同じくらいだそうだ。


 因みにジャンボ宝くじの1等を当てる確率は、1000万分の1である。この1000万分の1という確率だが、東京ドームの収容人数を45000人だとすると、東京ドーム約222個にひしめき合う人の中から、1人が選ばれるのと同じ確率だ。ハック・ソピャウの言葉によると、奇跡の出会いを果たした人間は、必ず複数の異性から同時に好意をもたれるそうだ。複数の異性から同時に好意を持たれる……いわゆるモテ期到来ということだ。


 奇跡の出会い――僕にとってそれは徹男のことではないのだろうか? 何故ならやつと出会ってから、この普通中の普通であった僕の日常は劇的に変化したからである。そう、いい意味でも悪い意味でも……。

 

 三幻寺駅、三幻寺駅、降り口は右側に変わります――。

 

 電車に揺られながらそんなことをボンヤリと考えていると、いつの間にか目的の駅に到着していた。因みに今しがた述べた、ハック・ソピャウの説法云々は全て嘘だ。それ以前にハック・ソピャウなる人物など、この世に存在すらしていない。余りに暇だったので久しぶりに、脳内虚言癖がつい出てしまっただけである。あしからず。


 


 待ち合わせ場所に到着すると、既に全員が到着していた。


「ヒーちゃん、遅いー」

 

「すまん、何を着て行こうか迷っちゃってな」


「嘘つくんじゃねえ、お前いつもと全然変わんねえじゃんよ」


 確かに幹大のいう通りである。何故なら今日の……いいや、今日も僕の出で立ちは白いTシャツにリーバイスの501だ。自分的にはジェームス・ディーンを意識したつもりだったが、そのことに気付いてくれる人物は、恐らく永遠にそしてフォーエバーにいないだろう。


「ヒーちゃん、ジェームス・ディーンみたいっ!」


 前言即撤回――ここに一人、僕の意をくんでくれるやつがいた。


 それにしても、黒柳徹男、壇美鈴、花村柚希、この3人の私服を見るのはお初だ……うん? いいや、徹男は初めて電車で出会った時に私服だったな。今日もあの日と同じく、黒のワンピースに真っ赤なバレリーナシューズを履いている。誠にもって可愛らしいこと山の如しだ。

 一方、壇さんのほうは徹男とは対照的に、ノースリーブの純白のワンピースを着ていた。これまた涼やか&清楚で、誠にもって可愛らしいことマウンテンの如しである。


 そしてオーラスは花村さんだ……アカン、アカン、アカンでっ、それはっ! 思わずそうツッコみたくなるような、胸の谷間を強調したキャミソール。加えて露出度の高い、デニムのショートパンツ……全くもってけしからんっ! でもそういう分りやすくエロいのも結構好きかも。

 だが僕を最も萌えさせたのは、彼女が背負っているリュックサックだ。恐らく地味っ子だった頃に使っていたものだろう。非常にマニアックな僕は、恥ずかしながらこういうところにグッときてしまうのだ。そんな不毛な妄想しているとミスター女好きが口を開いた。


「それにしても、お三人さんとも実に素晴らしい」


 幹大は3人を眺めながらいうと、にやけ顔で更にこう続けた。


「まあ、個人的には柚香ちゃんが1番だけどね。ヒロ、お前もそう思うだろ?」


こ、これは難題だ。個人的な意見をいわせてもらうと、答えは当然YESだ。だがこの状況で首を縦に振るということは ”軍曹殿、自分はエロいのでありますっ! 先程から花村隊員の胸の谷間が気になってしょうがありません” といっているようなものだ。だがここで首を横に振るのもどうだろう? 

 何故ならショックを受けた花村さんは、もう二度とこのような露出度の高い服を身に纏わなくなるのではないだろうか? それは断じて困る。消費税が上がるよりも由々しき問題だ。さてどうしたものか……取りあえず僕は静かに瞼を閉じた。ポク、ポク、ポク、ポク…………チーン。よし、答えは出たぞ。


「ちょっと露出度が高いんじゃないかな?」


「や、やっぱりそうですか……」


 花村さんは顔を伏せながら落胆の表情を浮かべた。一方、徹男&壇さんの連合軍は、納得するように首を大きく縦に振っている。因みにこの二人は先の一件から花村さんと敵対関係にある。


「でもまあ、今日は炎天下の真夏日だし ”夏に露出度の高い洋服を着ないで一体いつ着るのよっ!” っていう至極真っ当な意見があるのも事実だ。だから要約するとね、僕的には花村さんの恰好は、特に問題ないんじゃないかな、って思うんだ」


 この悪徳政治家のような、のらりくらりとした意見に、徹男と壇さんの顔つきが一気に曇ったのはいうまでもない。要するに作戦失敗ということだ。因みにどうして今日この場所に花村さんがいるのか? 不思議に思ったかたも多いだろう。簡単にいうとアホ幹大が彼女を誘ったのである。

 昨日起こった壇さんとのいざこざがまだ解決した訳でもないのに……野郎は相変わらずのデリカシーの欠片も無い、卑猥極まりないドスケベ男だ。よしっ、あとで鼻をブン殴ってやるっ! むっつりスケベの僕は心の中で固く誓った。


「それよりドスケベ君……あっ、ごめん間違えた、浩志君――」


「壇さん、そんな間違いかたはこの世に存在しない。それにいっとくが僕はドスケベじゃない」


 ”むっつりスケベだ” と訂正するのは愚の骨頂――僕は静かに言葉を飲み込んだ。そしてしたり顔で更にこう続けた。


「男がスケベじゃないと子供は出来ない。今の少子化問題は、日本の男がスケベじゃなくなってきている証拠だ。よってこのアホ幹大はともかく、僕はドスケベじゃない。分ったかい、壇さん?」


「少子化問題と日本の男がエロい、エロくない云々は全く別問題よ。一番の最初に打開しないといけないのは政府が――」


「よーし、徹男、抱っこしてあげるからこっちおいで」


 壇さんが至極真っ当な意見を語り出したので、僕は慌てて徹男にヘルプを求めた。途端に小動物のように飛びついてくる徹男――一方、壇さんと花村さんはそんな光景を、冷めた眼差しで見つめている。僕はそんなことなどお構いなしとばかりに、徹男を抱きかかえると更にこう続けた。


「徹男、壇さんは相変わらず小難しいことをいうねえ?」


「うんっ、小難しいっ!」


「正直、少子化問題のこととか知らないもんねえ?」


「うんっ、知らなーいっ!」


美少女(・・・)で頭脳明晰だからって、ちょっと嫌味だよねえ?」


「うんっ、嫌味っ!」


 偉大なるYESマンの徹男は、恐らくなにも考えずに僕の意見を肯定してくれる。このぬるま湯につかる感覚――これが誠に癖になるのだ。一方、理不尽丸出しの文句をぶつけられた壇さんは、いつになく険しい表情を浮かべていた。

 

 こ、これはマズイなあ……どうやら本気で怒らせてしまったようだ。よし、兎にも角にも取りあえずは土下座だ。もしそれでもダメなら土下寝、そして最終的には靴舐めで許しを請おう。僕は心の中でそう呟くと、静かに土下座の体勢に入った。


「ちょ、ちょっと何してんのよっ!」


「えっ? 怒ってるようだから、取りあえず土下座で謝罪を……」


 壇さんは呆れ顔で溜め息を漏らした。


「別に怒ってないわよ」


「ホントでげすか?」


「美少女って言葉が入ってたからね、気分は悪くしてないわ。それに男が簡単に土下座なんてしちゃだめよ。前にも言ったでしょ?」


 壇さんは悪戯っぽい表情で小首を傾げてみせた。


 ど、どうなの? この小悪魔っぷり。正直いって上半期で一番萌えた。お前もそう思うだろ? そう思いつつ幹大に顔を向けると、野郎は花村さんの胸の谷間を至近距離でガン見していた。

 こ、この野郎……僕は音も無く幹大に忍び寄ると、恐ろしく素早い手刀を野郎の首筋に叩き落した。当然のことながら幹大は即座に気絶した。


「ふん、思い知ったか、このクサレ外道がっ!」


「浩志様、あ、ありがとうございます」


花村さん胸の前で手を組むと、神々しいものでも見るような眼差しを向けてきた。そんな彼女に僕はこれでもか、というほどの爽やかな微笑みを向ける。


「礼には及ばない、女性を助けるのは僕の趣味みたいなものだから」


 見つめ合う二人――因みに僕は花村さんの瞳を見つめているようで、実際は彼女の胸の谷間を見ているという高等技術を繰り出していた。因みにこの技を習得するのに実に3年の月日が掛かった。そんなむっつりエロス全開の行動をしていると、僕に抱きかかえられていた徹男が大声で叫びだした。


「ヒーちゃん、オシッコ漏れそうっー」


「えっ! なんでもっと早くいわないんだよ」

 

 トイレを探し慌てふためく僕と壇さん、相変わらず僕に夢中の花村さん、口から泡を吹きながら気絶中の幹大――こうして僕の洋服買い物ツアーは、ドタバタ劇のように慌ただしく始まったのであった。

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