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幼なじみの薬術師に願いを!(3)


「……ええと、結婚が駄目になって、どうしてそんな結論に?」

 レノンの顔が、ひくついている。


「今回のことで、女性って随分損だなあ、って思ったのよ。こうして何かあったら『女の方に問題がある』って決めつけられるし。現に私がそうでしょう? この国の考えがそうなのかもしれないけれど、このまま女でいるの嫌になったの」

「で、でも、いつかステラのことを愛してくれる男性が現れるかもしれないし……」

「あり得ないって。私、グライアス殿下の求婚も断ってるのよ?」

「――えっ!? どういうこと、それ? だってオズワルト様と結婚……って言ってなかった? ……あれ? 男同士だと結婚っていうのかな?」

「結婚するつもり満々だったわよ? でも、男同士で結婚だと、子が産めないでしょ? だから私が側妃に入って、殿下の子を産んでもらうって言われたのを断ったの」

「……なんだよ、その人の道徳を無視した権力行使の滅茶苦茶な発想……だから王宮って嫌なんだよ……」

 レノンが頭を抱えてテーブルに突っ伏した。

 つーか、王宮仕えをしたことがないレノンが、どうして頭を抱えるんだろう?


「まあ、そんなこんなで、男として生まれ変わろう! と思ってヒューさんに相談しにきたんだけど……こんなことになっていたわけで……」

「でも、たとえ、だよ? 男になったとして、ステラは何をしたいの?」

 まだ頭が痛むのか、こめかみを押さえながらレノンは聞いてくる。

「もちろん!」

 私はビシッと片腕を上げて、人差し指をたて宣言した。


「ハーレム作ります!!」


「……それってさ。結局、女性を幸せにしないでしょ? 寵愛する女性とそうでもない女性で分かれて諍いが起きるし、男になったステラに愛されないとか事態が起きたら悲しむ女性が増えるだけだよ? ステラは今、そういう経験してその辛さ分かってるだろう?」

「その辛さを分かってるからよ? 私は自分のハーレムを作ったら皆を平等に愛するわ!えこひいきなんかしない、絶対よ!」

「……」

 レノンは言葉が出ないほど感動して……いえ、呆気にとられているらしい。


「そのためにまず男にならねば! そして、レノン! 貴方に弟子入りします」

「なんで?」

「ヒューさんが生前作っていた女性用化粧品の作り方を伝授してもらいたいの。他に金儲けの薬があったら教えて頂戴! それで一財産を築くわ!!」

「……まあ一子相伝じゃないから教えてもいいけどさ……。でも、男になる薬って……」

「――あるんでしょ?」

 いきなり確信についた私に、レノンはビクッと肩を揺らした。


(やっぱりな……)

 ふふん、と私は鼻を鳴らす。

「さっきカップを落とした時、分かっちゃった。いつもは『そんな薬ないよ』『作ってないよ』とか即答なのに、今回は顔色変えて動揺してたもの」

「ぅうううう……」

「幼なじみの長年の勘を侮るな?」

 唸ってまた顔をテーブルに突っ伏すレノンに、お茶目に言い放つ私。

 ああ……こんな可愛いポーズもとれなくなってしまうのも残念だけど。

 

 まだ唸ってるレノンに私は近づき、しゃがむ。

「あのね。明るく軽く言ってるけど、これでも私は真剣なのよ……? 昔っから『おまえは男に生まれれば良かったのに』って言われていたけど、確かに男に生まれた方が良かったと何度も思ったわ。だからこれは転機だと思ってるの」

「ステラは……オズワルト――つまり、男性を好きになっていたんだよね? それを男になって、いきなり女性を性対象として好きになれるわけ?」

「男になったら、そういう気分になるんじゃないかしら?」

 私の答えにレノンはちらりと視線を向ける。なんだその流し目は? 色っぽいけれどなにかご不満が?

 はあ、と溜息をついてレノンの身体が揺れる。


「……あるよ、性を変えられる薬」

 長い沈黙の後、レノンは白状した。

「やっぱり!」

 やったー! と私。

「もう出来てるんでしょ?」

「そこまでお見通し? 僕ってそんなに分かりやすいかな……」

「分かるの私くらいだって! あと、亡きヒューさんかな」

 落ち込むレノンに私はポン、と肩を叩く。

 

 レノンは溜息混じりに身体を起こすと、私と向き合った。

「作るのに材料集める日数をいれて一週間くらいかかる」

「分かったわ。じゃあ、一週間後」

「――だけど」

 と、急に深刻な顔をして私に言った。

「本当に男になっていいのか? 男になって生きていけるのかどうか? 周囲の、特に家族にはどう告げるつもりなのかちゃんと考えて。それから渡すから。ステラくらいまでずっと女として生きてきて、いきなり男になりますってかなり覚悟が必要なんだ」

「……分かってる。でも、確かに男になった時の計画って大事よね。一週間練ってみるわ」

「いや、もう男になる気満々だけどさ、まず『このまま男になっていいのか?』ってことから考えようよ?」

「男になることは決めてるの、結婚駄目になった時からずっとね」

 だから意志は変わることはない。私はそれを含めてレノンに答えた。

 私の表情を見て、覚悟が伝わったのかレノンはまた深い溜息をつく。

「まあ、とりあえず一週間後、きてくれないかな?」

「楽しみしてるわ!」


 そうして私は事前に薬の代金を尋ね、帰宅についたのだ。



◇◇◇◇◇


 それからあっという間に一週間が経ち、薬を貰う日前夜になった。

 

 私は家族宛に書いた手紙を机の引き出しにしまい込む。

 内容は「今後、自分は男として生きます。よろしく」みたいな。

「また冗談を」と笑って済まされそうだけど、男になった私の姿を見れば真実味が起きるだろう。

 

 私は椅子を引いて立ち上がると、姿見の前に立つ。

 絹の裾レースの乙女チックな寝着――これ、じつは新婚用に新しくあつらえたもの……

 勿体ないから隠居先で着ようと持ってきたものだ。

(まさかこんな早く、男になれる薬が手に入る話になるとは思わなかったからなあ……)

 可愛い寝着姿の自分を見るのも、今日が最後かもしれない。


「あ、そうだ。念のために男性の服を持って行った方がいいわよね?」

 兄の服は別荘に残っているかしら? と、兄が使用していた部屋へ向かう。

 今は私がこの別荘の主人なので、鍵は私が管理している。

 合い鍵ももちろんあって、それはコニーとここの使用人に預けていた。

 とはいうものの、今別荘は使用いているので部屋の鍵は大体開けてある。

 換気のために兄の部屋も、確か開けておいてあるはずだ。

 ヒタヒタとランプを片手に廊下を歩く。当然、足音をたてないよう細心の注意を払って。


 ――そういえば


(既に薬があったってことは、私が依頼する先に頼んだ人がいるってことよね?)

 私と同じ思いをしている人がいるんだ。


 一体誰なんだろう?







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