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幼なじみの薬術師に願いを!(2)

 勢いよく戸を叩こうとして、ちょっと躊躇う。

 

 長くお世話になっていたのに、半年も顔を合わせていない。

 オズワルトとの結婚が決まってからずっと翻弄されていた。

 キルトワには、夏と秋には来てたけど、ここに出向くことはなかったのだ。

 そういえば、結婚式の招待状を送ったけど「欠席」で返ってきた。

(……そこでどうしてなのか、連絡して聞くべきだったなあ……)

 自分の薄情さに改めて衝撃を受ける。

(だからオズワルトも……? いやいや……あれはそういう理由じゃないし)

 ――というか、私が悪役になっているのは、どこかしら私の酷薄さが滲み出てるから?

「……ちょっと……、それだとショックだわ……」

 扉に手をかけて落ち込んでしまう。


「誰……?」

「きゃっ!」

 手に掛けていた戸が急に引いて私は、そのまま扉を開けた相手に寄りかかってしまった。

「ステラ?」

 懐かしい、穏やかでのんびりとした声に私は顔を上げる。

「レノン! お久しぶりね…………?」

 私を受け止めた男性はレノンだ。

 

 ……顔立ちからして、そうなはず。

 烏の羽のような真っ黒な髪は、相変わらず寝癖がついて前髪が跳ねている。

 そして、相変わらずの眼鏡。彼は片目だけ近視が強いので右目だけ眼窩に填めている。

 碧い瞳は相変わらず澄んでいて綺麗。深い湖の底みたいに揺らぐ。

 間違いなくレノンだ。なのに背だけが違う。

 私より拳一つ分くらい高かっただけなのに――今は、ぐいっと首をあげないと顔が見れない。


「どうして疑問系?」

「だって背がずいぶん伸びてない? 背の伸びる薬でも調合して飲んだの?」

「この半年で伸びたんだよ。僕に必要なのは薬じゃなくて牛乳だった」

「そ、そう」

 ごめんなさい、と私はレノンから離れる。

 やだ……私、すごくドキドキしてる。

 背が伸びて大人の顔立ちになったから?

 それとも、相変わらずひょろっこそうなのに、支えてくれた腕と胸が案外逞しかったからかしら?


「……あ、ステラ。結婚したんだよね? ……おめでとう」

 片眼鏡を外しながらレノンは、沈んだ声で祝いを述べる。

「そうだ……結婚式の招待状送ったんだけど、欠席って」

「うん。ちょうどその頃、師匠が亡くなったんだ。それで……」

「――えっ? どうしてそれを伝えてくれなかったの!?」

「だって、お祝いの準備中のステラとステラの家には言えないよ。それに、その後もちょっとゴタゴタしてて出席するの難しそうだったし。……それに……」

 レノンの言葉の最後が小さくてよく聞こえなかったけど、それはヒュー師匠が亡くなった時のことを思い出しているのだと思って、私は深く追求しなかった。

「……そう。今度、お墓にご挨拶するわ。病気だったの? 師匠」

「いや、老衰だよ。もういい歳だったから」

 そういいながらレノンは、私を室内へ案内してくれた。


「ごめん、お茶は出せないけど……」

 台所の惨状を見て、私は「お構いなく」と首を振る。

「そうだ。コニーがお茶とお菓子をよこしてくれたから、一緒に食べましょう」

 レノンは、古ぼけた丸テーブルの上に積み上げられた古書やら見慣れない薬草やらをどけて綺麗にしてくれた。

 私は片付けられた丸テーブルの上に、魔法仕掛けのポットにミートパイにクッキー、カップケーキ、オレンジそれ短剣と置いていく。

 ……というか、コニー入れすぎ。どうりで重いと思ったわ。


「コニーはステラが結婚してからも、ずっと傍にいてくれんだね」

 自分のカップにコニーがいれた紅茶注ぎ、一息ついたレノンは僅かに口角をあげてそう私に言う。

 なんだか以前レノンより、より大人しく表情が薄くなっている気がする。

(やっぱり、ヒュー師匠が亡くなって、ずっと落ち込んだままなんだわ……)

 もともと幼かった時から喜怒哀楽の表情の少ない彼だったけど。それでも、半年前までは私には笑ったりしてたのになあ。

(レノンは私よりずっと繊細で、落ち込むとなかなか立ち直れない子だったし)

 

 そんな状態で私のことを話すのを躊躇っていたら、向こうから聞いてきた。

「でも、いいの? 新婚なのに旦那様。確かキャロウ侯爵のご子息でオズワルト様だったよね?」

「いいの、結婚式の途中で逃げられたから」

「――!? ぶっ……っ!!?」

 レノンが茶を噴いた。でも、私や菓子にかからないように顔を横に向いて噴いたところは立派だ。

「そ、そ……ゴ、ゴホッ……ゲホ……ッ! 一体、ど、どういう……? ホッ!ゲホッ……!」

 ほらほら、と私は近寄ってレノンの背中を擦ってやりながら話す。

「言葉の通りよ。オズワルトは元々グライアス殿下の恋人で、男同士だから子供産めないでしょ? だから諦めて別れて私と結婚することにしたんだけど、殿下が結婚式に乱入してきて花婿を奪っていったのよ」

「……」

 落ち着いても、レノンは言葉も出ないらしい。


「そして私は都では『殿下の恋人を奪った悪の令嬢』と後ろ指さされて、これから結婚できない、と踏んだ母が隠居先としてキルトアに連れてきたわけ」

「……どう取っても、ステラが悪いところ見つからないんだけど……?」

「私もそう思うわ」

「なのに、ステラが悪役で捨てられて隠居って……それでステラは納得してるの?」

「世の中そんなものよ。特にこの国って女性の立場って弱いじゃない? 男性のオズワルトを悪役にするより、私を悪者にした方が都合がいいのよ。だってグライアス殿下の恋人を悪く言えないじゃない」

 呆気にとられた顔をしてこっちを見ていたレノンだったが、急に真剣な顔をして私に尋ねる。

「ステラはそれでいいの? オズワルト様のこと好きだったんだろ? あれだけ彼の前で淑女のふりをして、片思いだったのに求婚されて喜んでいたじゃないか」


「仕方ないじゃない……」

 私はそんなレノンの真剣な眼差しから、身体ごとそらす。

 汚れで曇った窓からは、風景が霞んで見えた。

「……この窓ガラスから見える風景と一緒だったのかな……」

「えっ?」

「彼のこと、よく見えてなかったのかも。綺麗な容姿で物腰も優雅で、優しくて女性に人気があって……上辺しか見てなかったのかなあって」

「ステラ……」

「だって、彼があんなに女性っぽいなんて私、式がつぶれてから知ったんだから」

「……そ、そう」


「――そう! そうよ! ここにきた目的忘れるところだったじゃない!」

 なんだかグライアスの胸の中でしくしくとなくオズワルトを回想して、私は当初の目的を思い出した。

 私は立ち上がりレノンにむき直すと、テーブルに手をつき、前のめりになる。

 レノンは両手に自分のカップを持ったまま、目をぱちくりさせてじっとこちらを見上げている。


「私を男にする薬を作ってほしいの!!」


 彼の手から、飲みかけの紅茶がカップごと床に落ちた。







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