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幼なじみの薬術師に願いを!(1)

 隠居先の別荘は小さい頃から家族とよく行く憩いの土地だ。

 王都からさほど離れていないのに、景観は抜群だし食べ物もおいしい。

 近くの湖にまで行って、そこからボート遊び。

 散策に適した森林だってある。

 

 ……ここがこれから私の安住の地になるかと思うと感動も一際だ……わよね……。

 

 まあ、私には貴族社会の上下関係とか、貴婦人達のジメジメした争いとか堅っ苦しい宮廷のマナーとかに染まることは難しいのかもしれない。

 それを考えると、結婚破棄になって良かったのかもしれないけれど……

(なんにせよ、もっと早く決断してよね! 殿下もオズワルトも! そうしたら婚約破棄くらいで済んだのに!)

 公衆の面前で恥をかかされて、悪者にされて、不名誉な噂をたてられて。

(ああ……人生やり直したい)


「いいえ! 人生やり直す!」

 ピコーン! と思い出した。

 そうよ! あの別荘の近くの森林には、凄い人がいるじゃない!!

(きっとヒューさんとレノンなら、いい方法知ってるわ!)

「そうよ! 今からだって間に合う! 今度こそバラ色の人生を掴むのよ、ステラ!」

 荷造りしながら手に拳をつくり、ガッツポーズをする私。

 このまま一生、女として寂しい独身生活を送るなら――


「変わってしまえ! 性転換!」


◇◇◇◇◇


「いくら隠居でも年頃の女性が一人で森を散策するなど……私も行きます」

 なかなか引き下がらないコニーに

「ごめんなさい……ちょっと一人になりたくて……。ゆっくり考える時間がほしいの」

 とかなんとか目を潤ませながらしおらしく言って、なんとか別荘に置いていき私は別荘から歩いていける森へむかって行く。

 コニーが持たせてくれたお茶とお菓子の入った籠には、短剣が忍ばせてある。

 まあ、護身用よね。

 物騒な輩が出たという情報はないので、大丈夫かと思うけど「念には念」とコニーが持たせてくれた。


 外は初夏の日の光が若葉に差し込み、柔らかな光に変える。

 緑と光の調和に、初々しい花達は小道に咲き乱れ芳しい香りを放ち、蝶や蜂達を誘う。

 私は日焼け防止の鍔の広い帽子を被り、レースのボレロを裾の短いドレスの上に羽織る。

 靴は歩きやすい紐のショートブーツ。

 こう説明すると、淑やかな貴族の娘がしずしずと小道を散策していると想像するけれど、私は森に入った途端、大股で歩き始めた。

 だって、行って説明してそれから作ってもらって別荘に帰るとなると、時間が足りない。

 森の中に建てられたヒューさんとレノンの自宅にさっさと着かないと、コニーと約束した帰宅時間に間に合わなくなる。

「この時間に帰ってこなかったらステラ様の身に何かあったとして、使用人達を集めて探しに行きますからね?」

 と宣言されてしまったからだ。

 しおらしくいったら思い詰めているように見えたのか? 最悪自殺とか考えたのかもしれない。

 でも「男になる薬をもらいに行ってくるわ!」なんて言えないでしょう……。

 それこそ「ステラ様が乱心された!」と大騒ぎになって幽閉されるわ。

「……『男になる』って考えたこと自体、乱心なのかもしれないけれど」

 少し足を止めて、はあ、と溜息をつく私だったけど、決意新たにキッと前を見据えて歩き出す。

「いいじゃない。そりゃあ、最初は結婚相手に逃げられて絶望したけど! 今は女でいることに絶望してるんだし!」

 と、私は大股でズンズンと先を急いだ。

 男になって、女としてのしがらみを解き、私は自由に生きる!


「そして! 女をはべらす! 囲った女は平等に愛する! 男として当たり前!!」

 

私は鼻息荒く、森の中を闊歩していった。


 


 記憶の通りの場所に薬術師・ヒューの家はあった。

 丸太を積み重ねたような素朴な造りで、煙突の煙からしてまだここで生活してるようだ。

(そういえば……ここに来るのも半年ぶり)

 薬術師・ヒューさんは、昔王宮にも務めていた実力ある薬術師だ。

 確か、弟子としてレノンを引き取ってから王宮を退してこのキルトワに引っ越してきたと聞いている。

 私はとにかく昔から闊達で、よく怪我とかしたからお世話になっていた。

 ヒューさんの作った塗り薬は本当によく効いて、切り傷とかやけどとかに塗ると綺麗に消えてしまう。

 その腕前で女性用のシミ取りや美容液を作ってがっつり稼いだと聞いている。

(うーん……男になったらヒューさんに弟子入りして、化粧品で一財産を作ってからハーレムを作るべきか……)

 うん、そうしよう!





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