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私、ある決心をしました(2)

 小砂利の多い小道を、馬車がガタガタと揺れながら進む。

 向かうは、私の隠居先の別荘。

 

 私に付き添ってくれるのは、長く仕えてくれている侍女のコニーだけ。

 そうだよね、本当は今頃、オズワルトの屋敷で新婚生活していて私付きの侍女は全てオズワルトが手配して、こちから連れてくるのは元々コニーだけだったから。

 コニー以外にも三人侍女がいたんだけど、エリソン家の私の実家で勤めを続行させるか、退職して家に帰るかの選べと言われて三人はエリソン家に残った。


(で、こうして結婚中止になって、私の侍女に戻る、ってことは拒絶ってどういうことだ……!)

 

 まあ、要するに嫌なんだろうな。そんな汚点のついた令嬢に仕えるの。

 まだ、結婚をしていないうら若き女性ばかりだもん。そんな縁起でもない令嬢に仕えていたら自分の結婚運も危ういと思っているのが関の山。

 

 ていうか、縁起を真に受けるのってどうよ?


「コニー、いいのよ? 私に義理立てしてついてこなくても」

 コニーは薄茶色の瞳をパチパチさせて、驚きながら首を横に振る。

「いえ、私はステラ様の侍女です。同行してお世話いたします」

「いいの? 都からずっと離れて暮らすのよ? それに今から行くキルトアは今過ごしやすいけど、冬になったら寒いわよ?」

「冬はどこに行っても寒いじゃありませんか。それに、私はステラ様がまだやんちゃな時からずっとお世話しているんですよ? これからだってステラ様のお傍におります」

「コニー……」

 やだ、うるっときちゃう。そんな穏やかな顔をして言わないで。

 

 コニーは私が五歳の頃から付き添っている侍女だ。

 彼女は土着の裕福な家の娘で、行儀見習いでエリソン家にやってきて、それからずっと私の傍にいてくれる。

 実家から幾度も見合いの話を持ち込まれ、帰ってくるように促されても

「これは私の生涯の仕事!」

と宣言して結婚をせずにいるのだ。


「でも、コニーも物好きね。私のような女にずっと付き添っていくつもりなんて……」

 嬉しいのに、ついひねくれたことを口に出してしまう。

「私のような、とは?」

「だって、結婚式の最中に男に花婿をかっさられたのよ? 周囲が私のことをなんて言ってるのか知らない訳じゃないでしょ?」

 そう、その超本人の私にさえ、その心ない話は伝わっている。

 コニーが、知らないはずはない。


『殿下に結婚相手を奪われたんですって』

『女性としての魅力が、なかったんじゃないのかしら?』

『男に奪われるなんてねえ』

『違うわよ。きっとステラ様が、オズワルト様を殿下からお奪いになったのよ』

 

 奪った殿下と逃げたオズワルトに非難が集中するはずなのに、どうしてかそこはスルーされて、私が非難されるという結果になった。

 仕方ないのかな、相手はこの国の跡継ぎ。下手に非難なんてできない。

 そしてグライアス殿下とオズワルトの悲恋からハッピーエンドは『世紀の恋』としてもてはやされて、私は『殿下から最愛の人を奪った悪女』と噂されることに。

 

 だって権力者を悪者にするより、そっちの方が都合いいもんね。


 コニーの顔色が変わる。

「ご存じだったんですね……」

 シュンとしたコニーの瞳から涙が溢れてきて、私は慌ててしまう。

「大丈夫よ! そりゃあ、初めて聞いたときはショックで泣いたけど。……でも、今は平気。だって私が『悪女』って柄じゃないでしょ? ……確かに女としての魅力はどうかと思うけど……」

 

 コニーを励ますといえ、自分で言ったことに自分が落ち込みそうだわ……

 まっすぐに流れるストロベリーブロンドの髪はいいとして、焦げ茶の瞳。顔はまあ、平均より上くらいかと思うけどきっと平均に近い方。

 ちょっときつめに上がる目尻は性格がきつく見える。

 教養も体型もほぼ標準。

 取り柄といえば、運動神経と男役の詩の朗読が上手いことくらい。

 きっと私は、性別を間違って生まれてきたのかもしれない。

 男だったら兄様のように、騎士とか運動系で活躍できたのだろう。


「ステラ様は殿下とオズワルト様の関係など全く知らなかったのですし、それに、それを隠して結婚しようとしたオズワルト様が非難されればこそ、ステラ様が悪く言われることなどないのに……!」

 私は、はらはらと涙をこぼすコニーの隣に移動して、彼女の手を握る。

「人の噂も何とやら、っていうじゃない? しばらくしたらまた新しい話に興味がいって私のことなんて忘れてしまうわよ。それまで田舎の良い空気でも吸って、伸び伸びしましょう」

「すいません、ステラ様の方がお辛いはずなのに。私が先に泣いてしまって……」

「私のこと大切に思ってくれている証拠だもの。かえって嬉しいわ」

 と私はコニーにハンカチを差しだした。

「ステラ様はそりゃあ、多少は闊達でしょうが、それでもお気持ちの優しいお方です。オズワルト様は一体どこを見てたのでしょう! 腹立たしいです!」

「コニー……ありがとう」

 自分の代わりに、こんなに怒ってくれるコニーを抱き締める。

(コニーは、姿が変わった私でも変わらず仕えてくれるかしら……?)

 驚いて逃げるかも。

 でも、もう、決めたの



 ――私、男になる!!








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