私、ある決心をしました(1)
一番幸せな日が、一番不幸に変わった日。
私の周囲も激動に変化を遂げた。
まず、元結婚相手であるオズワルトの父親は真っ青になり、土下座で私と私の両親に謝り続けた。
義理の母になる予定だったオズワルトのお母様は、息子が逃げた刹那に気を失ってそれからショックで寝込んだまま。
私の両親といえば最初激怒していたけど、父は殿下から多額の慰謝料と領地をもらってすぐに機嫌を直した。
そして母は「結婚式という大々的な場所で恥をかかされては、もう嫁のもらい手はない」と諦めた様子で私を放置。
というか、どうも所有しているどこかの別荘に私を追いやる予定。
この薄情な両親よりもオズワルトの両親の方が、よほど情がある。
こんな良いご両親の心労を知らずに『妃』としてグライアス殿下の側にいると公言したのだから、そのまま突っ走ってほしい。
そして私は――
悲しいが、だからと両親の失望感も分からないわけではない。
昔から闊達で、というかそれが過ぎて母を心労で幾度も寝込ませたことのある私が、人並みの、いや、それ以上の結婚相手を掴まえたのだから。
オズワルト。
キャロウ侯爵の次男である彼は眉目秀麗で評判の青年だった。
私の父であるエリソン侯爵とオズワルトの家・キャロウ侯爵は仲がよく、年に数回は家族で顔を合わせる間柄だった。
といっても、私のお転婆ぶりに恥を恐れた母は私と弟は「小さいからお留守番」と私達を別荘に置いて兄だけ連れていったので、オズワルトと直接顔を合わせたのは数回だけだ。
それでも、たまに会うと私は彼のきらびやかな容姿に惚れ惚れしてしまうので、いつもの半分くらいの闊達ぶりだったと思う。
その彼が私の社交界デビューに同伴してくれて、急速に仲良くなったのだ。
私が住む国・アーデンは、男子は十六歳。女子は十五歳で成人と認められる。
その歳には流石に淑やかな振る舞いができるようになった私は、天にも昇る気持ちで、彼の手に導かれて、淑やかに舞踏会の会場へ躍り出たのだ。
キラキラした世界と、それがとても似合うオズワルト。
容顔美麗のオズワルトは、そこに立っているだけでも周囲の注目を浴びていた。
色白の肌に、淡い金髪。緑の瞳に。まるで精美な彫刻のように美しくて、その微笑みは性別問わず魅了させた。
私は、彼が自分の同伴者であることに鼻高々だったと思う。
その後、友人達にとても羨ましがられて私は、自分の矜持が天高く昇っていくのを覚えたもの。
でも、彼とはその後、「いい友人」関係でしかなかった。
(当たり前か、あれだけ容顔美麗だもの。婚約者はいないと聞いているけど、きっと恋人の一人や二人軽くいそうだものね)
同伴も私の父に頼まれて、どうしても断れなかったのだろう。
とはいえ――私だって、一人の乙女。
オズワルトに仄かな恋心を抱いていた。
彼の前では「良き友人」を装っていたけど。
彼の前では常に淑やかに女らしく。どかどかと廊下を走らないし、階段だって飛び降りない。
小さな虫にだって驚いて怯えて、オズワルトに抱きついて見せた。
『姉様、二重人格者みたい』と言う弟の口をねじ捻り、彼の前では完璧な淑女を演じていた。
そうして一年後に――事は急展開したのだ。
『ステラ、僕と結婚をしてくれないか?』
と。
有頂天だったのは、私だけではなかった。
私の両親も大喜びだ。
オズワルトを挟んで、和気藹々と婚約を済ませて結婚の準備を進めていた。
――ただ、兄のクリフだけは乗り気ではなかったのが、気掛かりだったけど。
『ステラ、本当にオズワルトでいいのかい?』
と謎の台詞を私に吐いた。
『どうして? 私、彼が好きだわ。とっても優しくて格好良くて素敵じゃない』
『……そうかい?』
兄はそれ以上何も聞いてこなかったし、言ってもこなかった。
(今なら分かるわ……!!)
そう、オズワルトと殿下は恋人同士なんだということに!!
それを兄は知っていた。
知っていて黙っていたんだ。
(それ! 黙ってないで話せーーー!!)




