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舞踏会は波乱でいっぱい(1)

 舞踏会の前日に私達は王都の生家へ帰ってきた。



 そして――


 母が倒れた。


 父は呆然として酒を煽った。



 原因は――そう、私。

「ス、ステラが……! ステラが……! お、男に……、男に!?」


 兄に似た容姿の若者が一緒についてきて、両親は最初、大喧嘩をした。

「あなた! どこの女に産ませたの!」

「知らん! 私は知らんぞ!」

「しかも、私が産んだクリフよりいい男なんて!!」


 まあ、そう思うよね。

 兄とコニーが二人を落ち着かせて、それから私が何者なのか話した。

「なんの冗談だ?」と二人は顔をヒキツらせていたけれど――私が男性から女性、ステラに戻った瞬間を見て衝撃をうけたわけだ。


 あまりの衝撃に両親は「どうやって男になるんだ?」とか深く追求する余裕もないようなので、放置。

 どうやら舞踏会にも行けそうもないので、私と兄の二人だけの参加となった。


「急だから衣装は、私のお下がりでいいよな?」

 と、見繕ってくれた舞踏会用の濃紺のロングジャケットをコニーが私用に仕立てなおしてくれた。

 靴やベスト、シャツもお下がりだけど急なんだから贅沢は言わない。

 ついでに――女性に戻った時用にドレスも持って行くことにする。

 それまでに帰れればいいんだけど。まあ、舞踏会は大抵夜通しなので難しいだろうとのことで。


 エリソン家専用の六頭馬車に乗り込む。

 これ乗るのデビュタント以来だわ。特別な時以外にはこれは乗らないのだ。


「ステラが男としての初めての舞踏会だしな。華々しくいくぞ」

と兄。

 わー、兄も盛り上がってます!

 お付きの侍女は勿論、コニー。

「わくわくしますね! 皆、男性のステラ……スチュワート様を見てどう反応するでしょう?」

 と彼女も顔を上気させてる。

「うん……! 私も楽しみ!」

 短い間だけど身につけた『男』の技術が果たして通用するか?

 それとも――ばれるか?


 勝負の時だ。


◇◇◇◇◇


 周囲がざわめいて、注目される。

 注がれる眼差しに私は一瞬たじろいた。

 どうして良いのか分からず、兄を見る。

「お前を見てるんだよ。もうやるしかないぞ」

「――うん」

 腹を決める。


 私は笑みを顔に浮かべ、舞踏会の会場の中へ入っていく。

「私から離れるなよ」

「分かってる」

 こそこそと兄と再確認しながら、近づいてくる紳士淑女達に笑顔で挨拶をする。


「クリフ様、ごきげんよう」

「ごきげんよう、フラント夫人。それと、エミリー嬢」

 兄は、真っ先に声をかけてきた夫人と令嬢に会釈をする。

 私もそれを真似た。

「クリフ様、しばらく王宮にお顔を出さないので心配しましたのよ」

「すいません、少々しつこい風邪をこじらせまして……」

 そんな他愛のない会話から始まる。


 ――でも、分かる。

 早く私を紹介してほしくて、ソワソワしている。

 

 エミリーなんて、さっきから上目使いで私を見つめ目を瞬かせているもの。

 つーか、私の渡した扇子を「質素でつまらない」と影でさんざん馬鹿にしたでしょ、貴女。

 異性だと随分態度違って可愛いのねー。


(そうか、私が女の時ってこうして男女によって切り替えしなきゃいけなかったのね)


 出来ないけど。

「あの、クリフ様、一緒に連れ立っているそのお方は?」

 やっと振ってきた。私は、笑みを深くする。

「私の遠い親戚です。長く煩って空気の良い場所で静養していたんですが、最近調子がよくなってきたのでリハビリを兼ねて連れてきたのですよ」

 兄の紹介に私は片手を胸に当て、頭を下げる。

「スチュワートと申します。世間知らずでお目を汚してしまうかもしれませんが見逃してもらえれば……」

 頭を上げて、夫人とエミリーにニッコリと微笑む。


 二人――特にエミリーはこっちが恥ずかしくなるくらいに顔を真っ赤にした。

「い、いえ……そ、そんな……! とても、そうには見えません……」

「良かった」

 私はエミリーの右手を恭しく取る。

「私に貴女の麗しき手に口づけをする名誉をくださいますか?」

「えっ、ええ……!」

 エミリーは扇を広げ、顔を隠しながらもチラチラと私を見る。


 本当に、異性だと態度がぜんぜん違うわー。

 と内心思いながら彼女の手の甲にキスをする。


 すると

 ――ザワッ

 と周囲が一気に盛り上がる。


「……?」

 周囲を見ると、若い女性達が自分を囲むように見つめている。

「お前からの誘いを待ってるんだよ」

 と兄が耳打ちした。

 確か社交界では、女性から声をかけるのは、はしたないとされている。

 知り合いやさっきのフラント夫人のように親しい間柄がいたら仲介してもらえるけれど、女性達は遠からず近からずの視界に入る距離で、こうやって熱い視線を送るのだ。


 男性になって分かったこと。

(私、こういう努力してなかった!)

 いつもオズワルトの姿を探して来る度にきょろきょろと視線を彷徨わせながら忙しなく動いてきた気がする。

 オズワルト一筋だったから、他の男性がどーのこーのとかって全く興味なかったわ。


(こういう視線の駆け引きって大事なのね)

 男性目線になって初めて分かることってあるんだ。


 ――兄上、こう言うときはどうしたら?


 と目線で兄に指示を仰ぐ。


 ――私に任せなさい。


 と兄が頷く。


 その兄の頼もしいこと。

 兄は私が男性になっても優しい!

「スチュワ……」

 兄が穏やかな笑みを浮かべ、私の背中に触れた時だった。


「やあっ!君はどこからきたのだ!?」


 と、兄のいる反対側から馴れ馴れしく肩に触れてきた男に私はギョッとした。


 ――グライアス殿下!!


「えっ? あ、あの……」

 大きい身体をズイズイと私に擦り付けて迫ってくる。

 私、ビックリするわ、でかい体躯に押されてよろけそうになるわでただ、足を踏ん張るしかない。


「クリフ! 久しいな! いやぁ、お前の親戚かな? 驚いたよ、こんな見目麗しい青年を隠していたなんて……!」

「殿下、まず紹介をしたいのですが……?」

 ごほん、と兄が咳払いをすると、殿下は「や、そうだな」と名残惜しそうに私から離れた。

 ようやくまっすぐに立てて、安心してすぐ、先ほどの強烈なスキンシップを思い出して鳥肌がたった。

 さっき、さりげなく腰つかんでこなかった!?

 さりげなく匂い嗅いでなかった!?

(き、気色悪う~!!!)

 鍛えた体躯に、そこそこの色男なのにどうして 殿下このひとは野獣なことするの!?

「私の遠縁の者です」

と兄。

 

 私は落ち着け、落ち着けと頭の中で呪文を繰り返しながら、

「ス、スチュワートと言います」

と笑顔で挨拶絵をする。

「そうか、クリフの親戚の者か!どうりで似てるはずだ」

 と言いながら殿下は、私の肩に手を乗せさらに言葉を紡ぐ。

「しかも……クリフより美しい……」

 低い、どこかあだめいた声音に私、


(ヒィィィィィィィィィィィィィィ!)


 ぞわわわわわ、と悪寒が全身を駆けめぐる。

「殿下、彼は初めての舞踏会で緊張しております。それに元々身体が丈夫ではいので、早々と退出させようかと……」

 兄が、殿下を私から切り離そうとするけれど分が悪い。

「そうか! どうりで顔色が悪いと思っていた。では、静かで落ち着いた場所に移動してゆっくりと話そうではないか!」

 と、私の手と腰を掴みズンズンと歩いていく。


「殿下!」

 兄も必死に後を追いかけていく。

「クリフ! こなくて良いぞ! ゆっくり楽しんでいてくれ! スチュワートは私が面倒をみよう! ――なっ?」

 とニッコリと私に微笑みかけてくる。


 その殿下の顔は――頬が染まり瞳が輝いていて、まずい展開だと一目瞭然だ。


(一目惚れされた! しかも強引に関係を持つつもりだ!)









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