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誘惑されました(2)


・このまま、訳のわからないまま体験を済ます。

・正直に話して、待ってもらう。

・逃げる


 三選択が私の頭の中をグルグルと巡る。

 どれが正しい答えなのか、私には分からない。




「スチュワート様、お帰りですか?」

 ――どうしていいか混乱している私の耳に入った懐かしい声に、彼女の方に振り向く。


「コニー……!」


 戻ってきてくれたんだー!!


 私、涙目。


 そんな私にコニーはニッコリ、と微笑む。

 安心できる、コニーの笑顔。いつもの、笑顔だ。


「スチュワート様のお帰りがいつもより遅いとクリフ様が心配なさって、手が空いている者で手分けして探していたんです。ちょうど私も休暇から戻ってきたのでご一緒にお探ししていたんですよ」

 

 そうしてマリルにもニッコリ。

「マリルさんもご協力ありがとうございます。私がいない間、スチュワート様のお世話も引き受けてくださったようで、もう結構ですよ。クリフ様からご給金をいただいてお帰りください」

 ニコニコと笑いかけながらも、マリルを牽制するオーラが漂う。

 有無言わせないコニーの態度にマリルはすっかり怖じ気づいたようだ。

 半泣きのくしゃくしゃな顔をして逃げるように去ってしまった。


(……ちょっと、可哀想だったかな)

 後ろ姿を見てそう思っていると

「ステラ様……」

 コニーに女性名で呼ばれ、思わず背筋をただす。


 だって、すごーい低い声で呼ぶんだもん。

(これは……お説教が待っている)

「はい……」

 私は素直にコニーと向き合う。

 彼女の顔色が悪いは、夜のせいだけじゃない。

 上げた口角がピクピクとヒキツってる。

「申し訳ないと思って帰ってきてみれば! なんですか! 遅くまで遊んできたばかりでなく、村の娘さんに手を出すなんて!!」


 コニーの雷が落ちた。久しぶりだった。


◇◇◇◇◇


「まだ、女性に手出ししてません!」

 女性の姿、要するにステラに戻った私は兄とコニーの前で申し開きする。

 コニーは疑わしそうに私を見つめる。

 その剣呑な視線がめちゃくちゃ痛くて怖い。

 うー、何年ぶりだろう、こんな風に怒られるの。


 肩を縮ませ、口を開く。

「そりゃ、さっきはマリルに誘惑されかけたけど、私やりかた分からなくてどうしようかと戸惑ってたし……正直、コニーが来てくれて助かったのよ」

「やり方が分からない?」

 コニーはそう呟き、兄を見据える。

「女性に手ほどきは、私では教えられんだろう? それに、まだ時じゃないと思ってる」

 と兄。


 くるり、と私に視線を向ける。

「……森から帰ってきた、というとレノン様の家にいたようですが?」

「薬をもらいに行ってたの」

「まさか、レノン様から?」

「……レノンも『そういうのは来月くらい』って話してた――ていうか、レノンに教えてもらうのってどうなのよ?」

 

 私がそう告げた後、コニーはしばらく肩をいからせていたけれど「ふぅ」と力を抜いた。

「……こちらこそ、出過ぎた真似をして申し訳ありません」

 と頭を下げてきた。

「でも」と言葉を続ける。

「ステラ様が決めたこと。それに、アーデン国では殿下のせいでステラ様が女性のままお暮らしになるのは難しいと分かっていたのに――あの、両刀使いの色ぼけグライアスのせいで」

「コニー、彼は仮にも殿下だから呼び捨ては……、しかも私の友人だから」

 と兄が突っ込む。

「お兄さま、私も同意です」

「私もそう思う」

 私の意見に結局、兄も同意する。


 とりあえず、殿下のことは置いといて、とコニー。

「毎日届くステラ様のお手紙、最後、お返事をいただけませんでした」

「それは……」

『できれば、元の女性のステラ様に戻って欲しい』

のコニーの頼み。私は返事ができなくて書けなかった。


 私の躊躇いを分かっているのだろう、コニーは小首を傾げ微笑む。

「……我が儘でした、私。ステラ様が気持ちのお優しい方だと分かっているから、私の頼みを聞き入れてくださると思っていたんです。でもそれは、間違ってる、ステラ様が我慢するべきことじゃない。……それがどんなに奇想天外な願いでも」

「コニー……」

「また耐えきれなくて逃げてしまうかもしれません。それに、求婚はお受けできません。でも、やっぱり私はステラ様のお側にいてお仕えしたい、スチュワート様になっても……それが私の決心です」

「ありがとう……コニー……」

 私は泣きながらコニーに抱きつく。

 コニーは「まだ小さいお子さまみたいで」と言いながらも嬉しそうに私の背中をサスってくれた。


「――クリフ様! 私も腹を据えましたから! 来月、スチュワート様の手ほどきの手配、よろしくお願いします!」

 といきなり張り切るコニー。

「それから! ステラ様、舞踏会!」

「はい!」

「スチュワート様としてのデビューなのですから! 女性と気取られぬよう、ビシバシやりますよ!」

「は、はい!」

「早速、あらゆる想定を考えて回避する術を検討しましょう! クリフ様もご協力お願いします!」

「あ、ああ」

兄も慌てながらも返事をする。



 ――さあ、忙しくなってきた!








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