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誘惑されました(1)

 日が傾き始めると森の中は闇の静寂に包まれ始める。


(言い合いで遅くなっちゃった)

 少し遅くなったくらいで森は暗くなってしまう。

 いつもならちょっと怖いけれど、そういう感情は湧いてこなかった。

 

 今は男性なんだからビクビクなんてしてられない、ということもあるんだけど、私が早歩きになる理由はそれだけじゃない。

『そうだね、そうしてみるよ』

 レノンの言葉と態度が私の心を高ぶらせて、それに引っ張られて早く歩いてしまうのだ。

 誰かを思って赤くなったり憂いたりする彼の顔は、表情豊かで微笑ましいのに――心がざわつく。

 

 ――あれは知らないレノンだ。


 私の知らない誰かを想う、顔だ。

(見たく、ない)

 湧き出た感情に自分でも驚く。

 

 同時――私は、オズワルトを想うとき、あんな顔をしていただろうか?

 あんな風に熱い眼差しで、オズワルトを見つめただろうか?

(私……)


 不意に足を止めた。

 自分の答えが出る前に、こちらに向かってくる人影に私は眉を寄せ、腰に帯びているサーベルに手を掛ける。

「誰?」

 声を掛けると、「スチュワート様?」と嬉しさを隠しきれない声が返ってくる。

「あ……、マリル?」

「はい!」

 駆け寄ってきて、濃い陰を落としてきた森の中でも彼女の顔をようやく確認できてホッとする。

 彼女は、私と兄が剣の稽古の時にたむろっていた村娘の一人だ。

 コニーの代わりに臨時でいれた侍女。

 さすがに私の事情を全部話すわけにはいかないので、用があるときにだけベルで呼んで頼んでいる。

「いつもよりお帰りが遅いので、心配になって迎えにきたんです」

と、マリル。

 茶色の瞳をキラキラ輝かせて言う。不思議だ。薄暗いのに彼女の輝く瞳が分かるなんて。

「ありがとう、マリル。でも、迎えなんて良かったのに。私は男だし」

「スチュワート様はこの辺は慣れていないと思って……ご迷惑でしたか?」

 いえ、小さい頃から馴染みのあるところですから。

 と言いたいけれど、『スチュワート』は遠い親戚で初めてキルトワにやってきてこの辺は不慣れだという話になっている。

「ううん、迷惑だなんて。ただ、マリルは女の子なんだから、暗い道を歩くのは危険だと思ってね。年頃の娘さんなんだから」

「いえ、そんな……」とマリルが頬を染める。

 私はそれを見て微笑ましくて口角を上げた。


(可愛い……)

 マリルの手を握ろうとして、はた、と気づき、止めて手を下ろす。

 中途半端な感情で馴れ馴れしくしちゃいけない――急にそう思った。


 マリルは自分に特別な感情を抱き始めている。

 だけど私は?

 レノンの顔を思い出す。

 誰かを想い、揺れる瞳と、切ない感情が見え隠れする表情。

(私は、あんな風にマリルを見ていない)


 可愛い、触れたい、と思うけれど――

(そう! この下腹部がムズムズする感情はなんなの!?)

 これが強くなってくると、身体がざわざわして「触れたい」「キスしたい」とか勝手に暴走しはじめる。

理性が縮まってしまう。


「――!?」

 ビクン、と身体が跳ねる。

 マリルが私の手を握りしめてきたからだ。

「スチュワート様……怖い」

「あ、えっ? ああ、そう言えば一気に暗くなったね」

 あれこれ思い悩んみながら歩いていたら、いつの間にか森は闇に包まれていた。


「急ごうか」

 私は、胸と下半身のドキドキを抑えながら彼女の手を引き、帰り道を歩く。

(下半身のドキドキの抑え方を、兄上から教えてもらわないと!)

 ようやく、別荘の明かりが見えてホッとしていると、急に手を引っ張られた。

 油断していた私は、「わっ」と声を上げて数歩下がる。

 されるがまま木の陰に連れていかれてしまい、マリルの以外と強い力に驚く。


「酷いです、スチュワート様……」

「? 何か酷いことした?」

 切ない声で酷い、とか急に言われて私は首を捻る。

 すると――マリルが私の胸に身を委ねてきたのだ。

(えっ? ええ? ええっ?)

「男と女がこうしているのに……私が勇気を出して暗くなる森に、スチュワート様を迎えにあがった理由を知っているくせに……」

 そう言いながら、胸をサスサスしてきた。

(えええええええええええええっ!!?)


 これって、

 これって!!


「あ、あれ? あれよね? 男女が揃ったら子作りしましょう! とかのノリだよね!?」

 思わず大で声に出してしまった。


「シッ!! 声が大きい!」

 とマリルが今までの可憐な姿とは違う逞しい様子で、私の口を塞ぐ。

「私の手を握ったでしょ? 私のこと憎からず思ってらっしゃるんですよね? 私も、スチュワート様ならいいです! たとえ本妻になれなくても地方用の愛人でも!」


「えっ? えっ?」

 これは、私的に望む展開じゃないだろうか?

「ハーレム要員、第一号……」

 思わず呟いてしまい、ハッとする。けれど彼女の耳には届かなかったよう。


 腕を私の背中に回し、ギュッと抱きしめられる。

(彼女の胸が当たる……柔らかい)

 ほわ……っと、胸の感触につい気持ちよくなってしまいたくなるのを、私は必死におさえた。

「マ、マリル……! ちょ、ちょっと待って! 私の話を聞いてから……」

「いや! いやです! スチュワート様がいいんです!」

「だから、ちょっと待って。君の気持ちは分かったから……!」

「私、もう十五です! 子供だって産めます!」

(えええええええええ!? 十五?だって!?)

まだ子供じゃない! なのに、女の私より胸があるの!?

「身体だって丈夫だし! 一年に数回しか会えなくても我慢します!」

「いや、待って! 十五って」

「十五で成人じゃないですか!」

 そうだった!


(じゃあ、数年待ってもらって……それで私がお金持ちになってから……)

 なんて忙しく頭を巡らせていたら――

 スッ、とマリルが離れた。


「スチュワート様……」

 マリルが自分のベストの紐を外し始める。

「マリル……」


 これは――

(お誘いに乗らないと、まずい……?)


 でも――



(どうやるの……!?)









今回のは短いのでまた夜に投稿します。

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