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身内より身内に近い人が慣れませんでした(2)

 剣の稽古を済ませ、昼のティータイムのあと、勉学に励む。


 ……つもりだったんだけど、途中で舟こいでしまって兄に何度か頭をはたかれた。

 慣れない剣の稽古に勉強。男になるためとは言え結構ハード。

「剣の稽古のあと、昼寝の時間を入れるべきかな……」

 なんて考えながら、自分の部屋に戻る。

 そろそろ夕餉だから、寝室に置いてある薬を取りにいかないと。

 最近は面倒になって、かっちりとしたドレスを着ていない。

 男性用のシャツにくるぶしまでのロングスカートという、簡素ですぐに脱ぎ着できる衣装ばかり着ている。

 薬を飲んで食事を食べた後、あっさりと男性になってしまうからだ。

 その分、女性に戻るのに時間がかかるようになってきている。

(女性になる薬……いよいよいらないんじゃ……)

 今度、レノンに相談しよう。


「さて……薬、薬っと……あれっ?」

 また減ってる?

「一、二、三……」と数えて全部で十九個。

 朝、二十二個あって一個服用して残り二十一個のはず。

 私は、朝数えてメモしておいたものを確認する。うん、やっぱり二十一個だ。

 瓶から取り出して数えなおしてみても十九個しかない。

「……どうして?」

 時間が経つと自然に消える薬じゃないよね?

 ネズミ……とか? ――ぞっとしてブルリと身体を震わせるが思い直す。

「いやいやいや……瓶の中だし、いくらネズミでも瓶かじれないでしょ?」


 ――じゃあ、誰かが薬を抜いてる……?


◇◇◇◇◇


「私は知らんぞ?」

 夕食時、薬の数が合わないことを兄に告げると開口一番に否定した。

「第一、男が男になる薬を服用して何になるんだ?」

「でも、何割か美形になるから、男が服用しても良いんじゃないかな?」

「私は自分が不細工とも思っていないぞ? どちらかといえば美形寄りだから必要ない」

 きっぱり言いましたね。

「どうして数が合わないんだろう……?」

 それにしても不思議だ。

 この別荘には通いの掃除人。そして管理人。それと料理人がいるけれど、私の部屋の出入りが許されているのは、コニーしかいない。

(まさかコニーが……?)

「数え間違えたんじゃないのか?」

「私もそう思ってたんだけど、念のためにメモしておいたの。やっぱり個数があってないのよ」

「うーん……ネズミ――じゃないよな。実はある一定の時間が経ったら自然に消える薬だとか?」

 さすが兄。いきつく思考が同じだわ。


「……ちょっと仕掛けたから、それで分かるかもしれない」


 私は、いまだ部屋から出てこないコニーを案じながらもスープを飲んだ。


◇◇◇◇◇


「やっぱり……また一個減ってる」

 食事後、今度は兄を連れだって部屋に戻る。

 寝室から瓶ごと薬を持ってきて応接間で数えると、また一個減っていた。

「見かけお菓子だからな……使用人が勘違いして食べているとかか?」

「私の寝室に入ってるのは、コニーしかいないの」

「でも、コニーは昨日から塞いでいるじゃないか? 掃除にきた者だろう」

「寝室は今、私が自分で掃除してるの」

 兄は明らかに呆れた顔をした。

「雇っている者の仕事を奪うなよ……」

「これには理由があるの。男性になっていくから部屋の模様替えも兼ねているんだから!」

「ステラが指示して動かせばいいだろう?」

「大きなものを動かすときには呼ぶよ、勿論」


 ――もう! 話が脱線しちゃったじゃない。と私はブツブツ言いながら、瓶の蓋と本体の縁を確認する。


「……うん、私以外に中を探った人いる」

 自分が食事、そこにいなくて、通いの使用人が帰ったあと、別荘をうろつける人は僅かしかいない。



「コニー、いるんでしょ? 開けるよ?」

「ステラ様……、すいません……まだ……」

「コニー、私も用がある。君が開けないのならこじ開けるが?」

 兄が間髪入れずに告げる。

 強引だなー、なんて思っていたらカチ、と鍵を開ける音がして扉が開く。

「クリフ様……、ステラ様……」

 たった二日なのに、出てきたコニーはやつれていて顔色が真っ青だ。


「――失礼」

 と、兄は素早くコニーの両手を掴む。

「……!? クリフ様!?」

「ステラ、確認を!」

 兄に掴まれたコニーの腕を確認する。


「……男になる薬を持ち出していたのは、コニーだったのね」

 私は薬が入った瓶を、寝室の一番暗い場所に置き直した。

 そして瓶の蓋の縁に、台所から持ってきた灰を水に溶かしたものを塗っておいたのだ。

 勿論、瓶の中に腕をつっこまない可能性も考えて、蓋の部分にも塗った。

 蓋は絶対に外さないと薬は取れないし。

 コニーは手のひらについた汚れには気付いて落としたみたいだけど、腕についた汚れには気付かなかったみたいだ。

「コニー……もしかして、貴女も薬を飲んだの?」

「い、いえ……っ、」

 コニーは兄に腕を掴まれたまま、フルフルと首を横に振る。

「捨てました……。これ以上、ステラ様が男性化しないようにと」

 小さく、そう答えた。

「どうして……? どうしてそんなことを……? 私が男になること、賛成してくれたのに……?」

 ボロボロと涙を流し出すコニーを見て、兄は腕の拘束を外す。

「――ステラ様じゃなくなっていくのが辛いんです!! あ、あんな、女性に鼻の下をのばしてるステラ様なんて……!! ステラ様じゃない……!!」

 コニーは辛抱できず、顔を手で覆い泣き崩れてしまった。


◇◇◇◇◇


 泣きやまないコニーを兄の部屋につれて行き、話を聞く。

 驚いたけれど怒っていない。だけど、ちゃんと話を聞きたい。

 と私はコニーに訴えた。

 コニーは男性の姿でいる私に近づくことはなく、椅子に座って小さく縮こまっていた。

「コニー……私がいい男になって、甲斐性持ちになって女性を幸せにしてみせるって計画に賛成してくれたじゃない」

「……いったい、どれくらい女性を囲むおつもりなんですか?」

「ハーレム作れるくらい」

 私の言葉に兄は、ギョッとした顔を見せた。

「おまえ、ハーレムって……」

「いい男になって、金持ちになって、たくさんの女性を娶って、どの女性も均等にまんべんなく愛す! ――幸せの園を作る! それが私の『ざまあ』なの! ちょっと兄上は黙ってて!」

「はい」と兄上も小さく縮こまっているうちに、私はコニーに話を聞く。

「ねえ、コニー。私は男性になったらコニーを第一夫人にするつもりなの」

「――えっ?」

 さすがのコニーも驚いて、顔を上げる。

 私は、コニーに近寄り、両膝をついて彼女の両手をやさしく掴んだ。

「当たり前じゃない。コニーは私に小さい頃からずっと付き添ってくれているんだから。もう、家族同然。ただ夫婦になるだけ。でしょ?」

 コニーは驚いて薄茶の瞳を大きく見開いたまま、私を見つめる。

「コニーにはずっと一緒にいてほしい。ただ、形が変わるだけ。『夫婦』という形に。コニーだったら後から第二、第三とお嫁さんがきてもしっかりやってくれると思う。――勿論、コニーのこと男として愛します」

――これってプロポーズみたい。

(って、プロポーズよね……)

 そう思ったら恥ずかしくなって、私、急激に体温が上昇しはじめた。

「だ、だから……そ、その、男性の私も受け入れて……!」

 プロポーズだと思ったら、さっきまで滑舌だったのに、どもってうまく喋れない。


「――お断りします」


 コニーの冷めた一言に、今度は私が目を見開き止まってしまった。







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